今日のうた(148) 8月ぶん

[今日のうた] 8月ぶん

 

七夕や夢が欲しいと書きました (土居健悟「東京新聞俳壇」7月30日、石田郷子選、作者は男性だが何歳くらいの人なのか、「夢が実現しない」ではなく「夢そのものが持てない」のは、たしかに現代の日本だが) 8.1

 

甚平着て太郎冠者めく物腰に (小井川和子「朝日俳壇」7月30日、高山れおな選、「本当に所作が変わったのか、または錯覚か。ともあれ服装の力は大」と選者評、夫のことなのだろうか) 2

 

停電をした寝室で好きな詩を教えてもらった わたしの白夜 (薄暑なつ「東京新聞歌壇」7月30日、東直子選、「停電になって何もできないので、好きな詩を教えてもらったのだろう。特別な時間だったことを「白夜」という語が伝える」と選者評。素敵な恋の歌だ) 3

 

長文の近況報告姪に打ち「へえ」の二文字が二日後届く (高島由美「朝日歌壇」7月30日、佐佐木幸綱選、「「二文字が二日後届く」、「二」の繰り返しが楽しい」と選者評、きっと「姪」は若い人なのだろう、短い返信しかこない、自分の子に同じような経験をした老親も多いだろう」) 4

 

口うつされしぬるきワインがひたひたとわれを隈なく発光させる (松平盟子『帆を張る日父のやうに』1979、作者1954~は情熱的な恋の歌を詠む人、お酒の歌も多い、こういう恋の「濃い」歌は最近減ったような気がする) 5

 

見本市のいちばん奥にあるような愛がひとりで終わったという (小林久美子、作者1962~は「未来」短歌会の歌人、ひっそりとした恋、友人にもほとんど知られなかった地味な恋、でも自分にとっては大切なその恋が、いつのまにか終わってしまった) 6

 

こども抱く腕のふしぎな屈折を玻璃(はり)ごしにながく魚らは見をり (川野里子『五月の王』1990、「私は赤ん坊を抱いて、水族館の水槽の魚を視ている、ガラスには赤ん坊を抱く自分の腕の動きがいちいちくっきりと映り、魚たちが不思議そうにそれをじっと視ているように私には視える」) 7

 

夏川に木皿しずめて洗いいし少女はすでにわが内に棲む (寺山修司『空には本』1958、たぶん青森県の高校生だった頃の歌、「たまたま、夏川で、木皿を沈めて洗っている少女の脇を通った、何て可愛い女の子だろう、彼女はそれ以来、ずっと僕の心の中に棲んでいる」) 8

 

君こそさびしがらんか ひまわりのずばぬけて明るいあのさびしさに (佐佐木幸綱『群れ黎』1970、作者1938~は若い頃、元気のいい、男っぽい恋の歌をたくさん詠んだ、現代の若い男子は、あまりこういう歌は詠まないのかもしれない) 9

 

水脈(みを)ひきて走る白帆や今のわが肉体を陽がすべりゐる (春日井建『夢の法則』1974、彼女とともにヨット遊びを楽しむ作者、最近はあまり見かけないような、男っぽい恋の歌) 11

 

きまぐれに抱きあげてみる きみに棲む炎の重さを測るかたちに (永田和宏メビウスの地平』1975、「きみ」はもちろん河野裕子、昨日までに幾つか見たように、作者1947~の世代の男性歌人はみな、若い時には男っぽい恋の歌を詠んでいる、今とは何か違う) 12

 

砂日傘ちよつと間違へ立ち戻る (波多野爽波、海水浴にはたくさんのよく似た日傘が並んでおり、自分の戻るべき場所を間違えることがよくある、間違えた日傘の人と目が合ったとき、は微妙に照れくさく、いそいそと「立ち戻る」) 13

 

雪渓の水汲みに出る星の中 (岡田日郎、「雪渓」は夏の季語、白馬岳など夏でも雪が残っている雪渓は、夏のキャンプ等ではとてもありがたい、「水を汲みにテントを出たら満点の星空」) 14

 

終戦日何処へゆくとも父言はず (北澤瑞史、8月15日は、兵士はもとより戦争に参加した人すべてにとって心の痛む日である、父は、「どこへ行くとも言わず」家から姿を消した) 15

 

郭公(かつこう)や何処までゆかば人に逢はむ (臼田亜浪、「夏、カッコーは森ではよく鳴いている鳥だが、今日のこの森は、「人に逢はない」ほど広く深い、カッコーの声ばかりもう何時間も聞いているような気がする) 16

 

藻(も)の花や金魚にかかる伊予簾(いよすだれ) (榎本其角、「夏の金魚は涼しそうでいいな、金魚鉢の水中の緑の藻に白い花が咲いて、その間を赤い金魚が泳いでいる、その上には青々とした竹の簾が風に揺れている」) 17

 

行々(ゆきゆき)てここに行々(ゆきゆく)夏野かな (蕪村、「行っても行っても、どこまで行っても、緑が広がる夏野が続いているよ」) 18

 

けいこ笛田はことごとく青みけり (一茶、「おっ、澄んだ笛の音がきこえる、夏祭りの笛の稽古をしているな、青々とした田の上を笛の音が広がってゆく」) 19

 

牛部屋に蚊の声暗き残暑かな (芭蕉1691、「窓もない、ほの暗い牛小屋、むっと暑苦しい室内に、ぶーんと蚊の音がする」、初案では「暗き」の代わりに「弱き」だった、このように語を慎重に入れ替えながら芭蕉の句は出来てゆく) 20

 

遅速(おそはや)も君をし待たむ向つ峰(を)の椎のさ枝(えだ)の時は過ぐとも (よみ人しらず『万葉集』巻14 、「遅かろうと早かろうと、貴方が来るのを待っているわ、真向いの椎の樹の若枝が茂る約束の時が、たとえ過ぎてしまっても、いつまでも待つわ」) 21

 

わがごとくわれを思はむ人もがなさてもや憂きと世をこころみむ (凡河内躬恒古今集』巻15、「私が彼女を想うほど深く、私を想ってくれる彼女がいてほしい、でも、たとえそれほど私を想ってくれる彼女がいたとしても、恋はやはり辛いのだろうか、試してみなくては」) 22

 

越えもせむ越さずもあらむ逢坂の関守ならぬ人な咎めそ (和泉式部『家集』、「(藤原道長さまが、ある人の手元にある私の扇を見て、「浮気女の扇か」と仰ったらしいけど) 私がその人と浮気したかもしれないし、しないかもしれないでしょ、夫でもないのに勝手な憶測しないでね」) 23

 

はかなくも来(こ)む世をかけて契るかな再び同じ身とはならじを (藤原実定『千載集』巻15、「たとえ頼りなくても、来世に貴女と契ることにしましょう、来世なら同じこの私でなくなるだろうから、貴女に気に入ってもらえるかもしれない望みもないわけではありません」) 24

 

出でて去(い)にしあとだにいまだ変らぬに誰(た)が通い路と今はなるらむ (在原業平『新古今』巻15、「明け方に僕が貴女の部屋から帰った足跡はまだ残ってるよ、幾日もたってないじゃん、なのにもう新しい足跡がついてるらしいって、本当のなの、まさか僕以外に男がいるなんて」) 25

 

逢ふことは遠(とほ)つの濱の岩つつじ言はでや朽(くち)ん染むる心は (式子内親王『家集』、「逢いたくてたまらない貴方は、はるかかなたにいます、海辺の遠くに小さく見える岩のつつじのように、貴方への想いを「言わない」ままに、夕陽に染まるように、熱い想いのまま、私は朽ち果ててしまいます」) 26

 

とにかくにあな定めなの世の中や喜ぶ者あれば侘(わ)ぶる者あり (実朝『金槐和歌集』、「人の心というものが本当に分からない、同じ一つのことを、こんなに喜ぶ者もいれば、こんなに苦しみ悲しむ者もいる」) 27

 

2と書いて3をいい気にさせてやる (石田柊馬1941~2023、作者は現代川柳の大家、今年6月に逝去、ひねりの効いた面白い句が多い、この句もたぶん人の何かを「評価する2あるいは3」なのだろう) 28

 

眠り姫いつも誰かが触れている (竹井紫乙1970~、女性の川柳作家、2023年に詩の新人賞も受賞、この句、童話のお姫様がセクハラされる?のがユニークな視点) 29

 

飲みながら話そうつまり恋なんだ (岩井三窓1922~2011、「番傘」で活躍した川柳作家、この句は、誰が誰に向かって言っているのか、いろいろありそうなのが面白い) 30

 

クラス会にもいつか席順 (清水美江(びこう)1894~1978、作者は男性の川柳作家、中年以降になると感じるのだが、クラス会や同窓会は、自分を「負け組」と思っている人はあまり来ない、ここで言われる「席順」もそういう序列意識か、あまり笑えない川柳) 31

[折々の言葉]  7,8月ぶん

[折々の言葉]  7,8月ぶん

 

キリスト者は真の神を知って、この世を愛さない。(パスカル『パンセ』) 7.3

 

人間はもはや芸術家ではない、[人間そのものが]芸術作品となったのである。(ニーチェ悲劇の誕生』) 7

 

より気にかかることがあると、記憶の力はしばしば奪われてしまうものです。(ダンテ『神曲・煉獄篇』) 11

 

コペルくん、人間としてこの世に生きているということが、どれだけ意味のあることなのか、それは、君[自身]が本当に人間らしく生きて見て、その間にしっくりと胸に感じ取らなければならないことだ。・・はたから誰かが教え込めるものじゃあない。(吉野源三郎君たちはどう生きるか』) 14

 

ルビーの首飾りのように肌身離さず私についていて、愛しい人。指輪のように私に巻きついて。私のボタンホールにあなたのバラをください。あなたを朗読する前に、あなたの葉(ページ)を最後までめくらせてね。(ジャネット・ウィンターソン『詩としてのセックス』) 17

 

コペルくん、僕たちの心に感じる悲しみや苦しみは、人間が人間として正常な状態にいないことから生じている。そのことを僕たちに知らせてくれるから、・・その苦痛のおかげで、人間というものが本来どういうものであるべきかを心に捉えることができる。(吉野源三郎君たちはどう生きるか』) 21

 

言葉というもの、行為の熱をさます冷たい息にすぎぬ。(シェイクスピアマクベス』) 24

 

この世には名づけられていないものがたくさんある。そしてまた、名づけられてはいても説明されたことのないものがたくさんある。(ソンタグ『反解釈』) 28

 

怒りを隠してこそ、仕返しはうまくいく。(コルネイユ『舞台は夢』) 31

 

圧制との戦いの第一歩は、自分のすべきことをして、自分の良心を満足させることだ。(アーザル・ナフィーシー『テヘランでロリータを読む』) 8.4

 

彼女たち[=妻]がほしがっているのは、夫ではなく、放恣な結婚生活なのだ。夫なしでもやっていける手段がいくらでもあるのに、夫などなんの必要があろう。(ルソー『エミール』) 7

 

そのうち彼女が急に顔を上げて、私をじっと見つめたかと思うと、それを再び伏せながら、いくらか上ずったような中音で言った。「私、なんだか急に生きたくなったのね・・」、それから彼女は聞こえるか聞こえないかの位の小声で言い足した。「あなたのお陰で・・」(堀辰雄風立ちぬ』) 11

 

人が人を好きになった瞬間って、ずーっとずーっと残っていくものだよ。それだけが生きてく勇気になる。暗い夜道を照らす懐中電灯になる。(『東京ラブストーリー』赤名リカの科白) 14

 

そう思うと、トニオの胸はきりきりと痛んだ。でも彼はやはり幸せだった。なぜなら、このとき彼の心は生きていたからだ。温かく、悲しく、それは、インゲボルグ・ホルム、君のために鼓動していた。そして恍惚たる自己否定のうちに、金髪で、屈託がなく、溌溂とした、君というその平凡な小さな存在を、抱きしめていた。(T・マン『トニオ・クレーゲル』) 18

 

けれども私は、[少女たちの]一人一人をまだ見分けることができなかった。・・[いろいろな特徴が]わずかに見分けられるばかりで、しかしこうした特徴でさえ、私はその中のどれ一つをも、他ならぬこの少女のこの少女の特徴であるというように特定の一人にしっかりとは結び付けていなかった。(プルースト失われた時を求めて』) 21

 

それは幻のようであった。彼女はベンチのまん中にたった一人で腰かけていた。・・[彼は]これほどの小麦色をした素晴らしい肌、魅力的な体つき、光に透き通るような細い指は一度も見たことがなかった。・・名前は何というのだろう、どこに住んで、どんな人生を送り、どんな過去をもっているのだろう? (フロベール感情教育』) 25

 

笑いや涙はどちらも情念に由来する。情念と密接に結ばれているから、笑いも涙も、それが誠実であればあるだけ、意志には従わなくなる。(ダンテ『神曲・煉獄篇』) 28

[折々の写真]7、8月

[折々の写真]7、8月

7.5ブレッソン『やさしい女』1969、ドミニク・サンダ17歳はこれが映画初登場、こんなに可愛いのに、氷のように冷たく暗い女、原作はドストエフスキーの中編小説で非常な傑作、彼の最初の妻がモデルとも言われる、動画が↓

映画『やさしい女 デジタル・リマスター版』予告編 - YouTube

 

7.12 『ケイコ 目を澄ませて』2022、素晴らしい映画だった、聴覚障害の女子がプロのボクサーになるという話で、音がまったく聞こえないケイコに、周囲の人や景色がどう見えるかが映像に、ブレッソンと同じで映画に音楽を使わない、岸井ゆきののボクシングはとても美しい、動画↓

映画『ケイコ 目を澄ませて』公式サイト (happinet-phantom.com)

 

7.19ワイダ『鷲の指輪』1992、岩波ホールで94年に観た時は衝撃だった、ワルシャワ蜂起1944年8月を戦い傷ついたポーランドの若者たちの美しさと愛おしさ、ヤルタ協定の口惜しさ、看護婦役のアグネシュカ・ワグネル1970~も、主人公のラファウ・クルリコフスキ1966~も、これがデビュー

 

7.26『アメリカの夜』1973、トリュフォー映画は、ほとんどの作品が、出演した女優にとっての生涯の代表作になっている、ジャクリーン・ビセット1944~のそれもたぶん『アメリカの夜』、トリュフォー自身が映画監督として出演し、ビセットに表情を付けている、2分の動画

Georges Delerue: La nuit américaine (1973) - YouTube

 

8.2佐藤オリエ 映画『若者たち』1968は私が高校生の時のとき見て非常に感動した作品、私より少し上の世代の男子にとって、佐藤オリエはアイドルだった、その後結婚して自分に生まれた娘に「オリエ」と名付けた大学の先輩もいる、私の一番好きなシーンの動画が

映画 若者たち ②~オリエ恋人と再会 - YouTube

 

8.9 アラン・ロブ=グリエ『エデン、その後』1970

作家ロブ=グリエは、映画『去年マリエンバードで』のシナリオを書き、他に映画を幾つも撮っている。『エデン、その後』は、『快楽の漸進的横滑り』と並ぶ傑作、つねに幾何学的形象の中に置かれるカトリーヌ・ジュールダンの肉体はそれ自体が幾何学的で美しい 

動画

Eden and After (1970) ORIGINAL TRAILER [HD 1080p] - YouTube

 

8.16『魔の山』1981 、ショーシャ夫人はマリー・フランス・ピジェ、カストルプはクリストフ・アイヒホルン そしてG.ルカーチがモデルといわれるナフタ役にはシャルル・アズナブールが出演、どれも個性的な人物、ただドイツ版dvdが5時間半なのに、日本は2時間半の短縮版のみ

 

8.23 E.ヤン『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』1991、私がこれまで観た映画の中で最も心に残ったものの一つ、236分の大作、少年と少女の瑞々しい恋を、台湾の、戦前の日本の植民地化や戦後の国共内戦という雄大叙事詩の中で、家族愛とともに描き尽くした

『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』予告編 - YouTube

 

8.30 シャーロット・ランプリング、『愛の嵐The Night Porter』1971は洋画の最高傑作の一つ、監督のリリアーナ・カヴァーニはその後パリ・オペラ座の演出家に。ユダヤ娘とナチス将校たちの性的祝祭という最高のタブーを演じたランプリングの、何という美しさ! 3枚目はヘルムート・ニュートンによる写真

動画

Night porter - YouTube

 

[今日の絵] 8月前半

[今日の絵] 8月前半

8.1 7月29日に「マティス展」に行ったので、特に気に入った絵を何枚か。「座るバラ色の裸婦」1935、「眠る女性」1942、「オレンジのあるヌード」1953、マティスは、色彩のバランスもよいが、何といっても「形態」が卓越している

 

2 昨日に続き「マティス展」から、「夢」1935、「窓辺のヴァイオリン奏者」1918、「ヴァンス礼拝堂、ファサード円形装飾《聖母子》」1951、最後など、きわめて単純な「聖母子」の身体が美しい

 

3 Michael Ancher : 海辺の散歩1896

ミカエル・アンカー1849~1927はデンマークの画家、これは代表作の一つ、海を背景に人間が描かれた絵は多い、海の前に立つとき、人間は美しいからだろう、今日からはそうした絵を見てゆく

 

4 Abbott Fuller Graves : 1890年代

グレイブズ1859-1936はアメリカの画家、花に溢れた庭園画を得意とするが、もちろん人間も描く、それも帽子をかぶった女性が多い、たとえばこの絵、大きな客船の船橋に立つこの体勢、この服装の女性は、ただそれだけで美しい

 

5 Gauguin : Fatata te Miti 1892

「ファタタ・テ・ミティ」とはタヒチ語で「海沿い」の意らしい、ゴーギャンは1891年6月に初めてタヒチに旅行した、この絵は実景にもとづいてゴーギャンのファンタジーも加わったもの、海に飛び込む二人の女性の先には漁をする青年、手前の波には美しい葉が浮かんでいる

 

6ホアキン・ソローリャ : 海岸の散歩1909

ソローリャ1863~1923はスペインの画家、肖像や風景を描いたが、とりわけ太陽に照らされた水の近辺にいる大人や子どもが生き生きとしている、この絵も、スックと背筋を伸ばした女性が海辺をさっそうと歩く姿が美しい

 

7 Monet : Garden at Sainte Adresse 1867

まだ無名のモネ27歳の作、細部をくっきりと描く画風の頃、サントゥ=アドレッスはノルマンジー地方の海岸、手前に座っているのはモネの父、その隣の背中の女性は叔母、中央の立つ女性は従妹、幸福な家族を祝福するかのように、遠景の海には、たくさんの船が浮かんで賑わっている

 

8 Laura Knight : At the Edge of the Cliff 1917

海を背景にする場合、水平線の上に空も描くことが多いが、この絵は海面のみで、その様々な青色が特徴的、深みのある海の青色に、スックと立つ若い女性が映える、ローラ・ナイト1877 – 1970は英国の女性画家

 

9 Eustace Pain Elliott Nash : Bathers at Swanage

ナッシュ1886 - 1969は英国の画家、スワネージはイギリス海峡に面した海岸地域、服からして第二次大戦前か、カップル文化の欧州でも、海辺の絵には女子会っぽいのが多い、女子だけの方が男性の視線を気にせずにくつろげるのか

 

11 Paul Gustave Fischer :

フィッシャー1860~1934はデンマークの画家、画家の似たような絵は幾つもあるので海辺の「水浴び」なのだろう、女性だけでひっそりと舟の蔭で休んでいるが、ヌードが美しい、寒い国なので、夏には大切な楽しみなのだろう

 

12 Raoul du Gardier : Larguer les amarres

ラウル・デュ・ガルディエ1871-1952はフランスの画家、海上の船の絵をたくさん描いた、タイトルは「もやい綱を解く」、ふつう海面は均一なので遠近法的には描きにくいが、この絵はヨットのへさきを水平線に向けているので、空間を切り開く力感がある

 

13 Picasso : Portrait of young girl 1936

女性の体の各部分を分離して灰色の螺旋などで表現した、そして、灰色に近いがそれぞれ異なる薄青い海と空、三者のバランスがすばらしい、抽象的でシックなyoung girl

 

14 Branko Dimitrijevic : Breakfast by the Sea

ブランコ・ディミトリエヴィッチ1956~はセルビア生れの風景画家、港が特に好きでたくさん描いた、この絵は海水浴場のホテルのロビーだろう、海を眺めながらの朝食は快適だ、一人で朝食を摂っているこの若い女性は、単独行あるいはお独り様なのか

 

15 Gunin Alexander : 嵐

アレクサンダー・グニン1969~はロシア生まれの画家、女性の絵をたくさん描く、どちらかというと横姿や後ろ姿が多い、この絵も、海の嵐に立ち向かうかのように、スックと立つ女性が美しい

 

 

 

[今日の絵] 7月後半

[今日の絵] 7月後半

16 Marie Élisabeth-Louise Vigée Le Brun:ポリニャック公爵夫人1783

エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブラン1755~1842はフランスの女性画家、マリー・アントワネット付きの肖像画家だった、ポリニャック侯爵夫人1749~93は上流社交界きっての美女の一人といわれ、豪奢な生活と浪費で有名、この絵では楽譜を手に

 

17 Karl Pavlovich Bryullov : トルコ人の少女1837

カール・ブリューロフ1799-1852はロシアの画家、卓越した技巧をもち、国際的な名声を得た初のロシア人画家、ローマに長く滞在し肖像画をたくさん描いた、この絵の少女も輝くような美しさが

 

18 John Frederick Lewis : turkish girl 1863

ジョン・フレデリック・ルイス1804–1876は英国の画家、中東や東洋趣味で知られる、 タイトルは昨日と同じ「トルコ人の少女」、モデルは別人で画家も描き方も異なるが、顔の雰囲気はどこか似ている、「トルコ人の顔」というものがあり、それが捉えられているのだろう

 

19 Franz Schrozberg : Portrait of a Lady with Transylvanian Jewellery

シュロッツベルク1811~89はオーストリア肖像画家、タイトルだが、この女性は首から肩に掛けた宝石を見せたくて微笑んでいるようにも見える、トランスシルヴァニアとはルーマニア中部の地方名、そこの宝石はとりわけ豪華なのだろう

 

20 Emile Munier : 若い女の子の頭1874

エミール・ムニエ1845~90はフランスの画家、子どもの可愛い絵をたくさん描いた、この絵の少女も、何かを訴えるような眼差しが印象的で、少女の深みのある可愛らしさがよく捉えられている

 

21 Makovsky : Female Portrait 1878

マコフスキーの描く人物画はどれも存在感がすばらしい、この絵の女性も、特別な美人を描いたのではないだろうが、個人としての彼女固有の美しさが見事に表現されている

 

22 Albert Edelfelt : The Parisienne(Virginie) 1883

アルベルト・エデルフェルト1854~1905はフィンランド写実主義の画家、子供、女性など人物を描いた、この絵のタイトルは「パリの女性、ヴィルジニー」、女性は首をかしげて微笑んでいる、画家が指示したポーズだろうが、この姿勢・表情を画家は描きたかったのだろう

 

23 Ettore Tito : Azzurri 1909

ティト・エットーレ1859-1941はイタリアの画家、生涯をヴェネチアで過ごし、ヴェネチアの人物や風景を描いた、この「アズーリ」は画家自身が特に愛着を持っていたそうだが、モデルはおそらく親しい知人なのだろう、気品ある美しさに画家の親しみを感じさせる

 

24 Philip de Laszlo : アナスタシア・ミハイロヴナ・デ・トルビー伯爵夫人 1913

ラースロー1869-1937はハンガリー出身の英国の画家、王侯貴族やローマ法王などを描いた、この絵はモデルの父であるロシアの公爵の注文で描かれた、貴族は国際結婚も多いのだろう

 

25 不明の画家 : Woman with white gloves 20世紀前半か

「白い手袋の女性」、描いた画家は分っていない、だが身近にいる一人の女性の、等身大の美しさが見事に捉えられているように思う

 

26 Aaron Shikler

アーロン・シクラー1922-2015はアメリカの肖像画家、ケネディレーガンなど有名人の肖像で名高い、この絵はタイトルがないが、たぶん有名人ではなく普通の女性だろう、横顔だが眼の輝きがとても美しい、肖像画家としての才能がこの無名人の絵からも見て取れる

 

27 Costantino di Renzo : Untitled (Sofonisba)

コンスタンティーノ・ディ・レンツォ1946~は現代イタリアの画家、タイトル不明だが、Sofonisba Anguissola1532~1625というルネサンス期の女性画家を描いている可能性もある、現代の身近な女性というより、どこか伝説的な女性の感じがする

 

28 Emmanuel Garant :

エマニュエル・ガラント1953~はカナダの画家、女性の絵をたくさん描いているが、どの絵もさまざまに異なる姿勢・体勢をしている、この絵も、この位置、この姿勢、この光の当たり方こそ、この女性が一番美しい、と画家は判断したのだろう

 

29 Vladimir Volegov :

ウラジミール・ヴォレゴフ1957~は、ロシア生まれのスペインの画家、昨日のガラントと同様に、さまざまに異なる姿勢・体勢の女性を描く人、この絵の女性は自転車に乗っているが、白い傘、横向きの顔、白服の広がり、車輪などの絶妙なバランスは、マティスの人体の「建築的均衡」を思わせる

 

30 Damián Lechoszest : Night Light

ダミアン・レチョスト1976~はポーランド生まれの画家、ヨハネ・パウロ二世など肖像画で有名、この絵は古い「常夜灯」を持っているが、明らかに現代の少女だろう、何かを見ている表情が美しい

 

31 Suchitra Bhosle

スチトラ・ボスレはインド生まれで現代アメリカの女性画家、女性の絵をたくさん描き、どれも肉体の「厚み」のある存在感がとても美しい