2005-01-01から1年間の記事一覧

小林よしのり『靖国論』(7)

[読書] 小林よしのり『靖国論』(幻冬舎 05.8.1) リア王の三女コーディリアは、家族愛ゆえ自ら軍を率いて参戦したが、戦闘に負けて捕えられ獄死する。広義には戦死であろう。が、その獄死は、敵王エドマンドの命令の行き違いという偶然性に由来する。悔やんで…

小林よしのり『靖国論』(6)

[読書] 小林よしのり『靖国論』(幻冬舎 2005.8.1) 古代ギリシアのポリス、テーバイの王女アンティゴネは、敵軍に加わった「反逆者」である兄ポリュネイケスの遺骸を、埋葬を禁じる国王の命令に背いて埋葬した。それを咎められて、彼女は死に追いやられる。ア…

上毛新聞に書いたコラム(5)

[上毛新聞コラム] 「視点」 9月10日掲載 先祖帰りしたおとぎ話 ― 歌舞伎版『十二夜』 植村恒一郎 (新聞にはないが、写真は、公演パンフより。男装したヴァイオラとオリヴィア姫。) 東京・歌舞伎座の「七月大歌舞伎」は、何とシェークスピアの『十二夜』だっ…

小林よしのり『靖国論』(5)

[読書] 小林よしのり『靖国論』(幻冬舎 05.8.1) 昨日に引き続き、仏教は死者の霊魂を認めないことを再論する。小林氏は、「我々日本人は、神と共に生き、死者の霊魂と同じ空間に存在している」(p42)と、こともなげに述べているが、そんな簡単な話ではない。…

小林よしのり『靖国論』(4)

[読書] 小林よしのり『靖国論』(幻冬舎 05.8.1) 今日は、小林氏の宗教論の誤りを指摘したい。小林氏は、「宗教はすべて死者の霊魂の存在を前提する」と考えておられる。例えば、「墓地がすでに死者の霊魂の存在を前提にしている宗教的施設である」(p169)。「…

映画『せかいのおわり』

[映画] 風間志織監督『せかいのおわり』 渋谷 シネ・アミューズ 気分転換に映画館に行く。1月の『シルヴィア』以来だ。インディペンデント映画で、観客も少なかった。でも、なかなか味のある映画だ。東京で小さな観葉植物店をやっている二人の若者のところに…

小林よしのり『靖国論』(3)

[読書] 小林よしのり『靖国論』(幻冬舎 05.8.1) 小林氏は『靖国論』で繰り返し、慰霊=死者の霊魂の存在の承認=宗教、という等値を述べる。死者の慰霊は、すなわち死後の霊魂の存在を認めることであり、それはとりもなおさず宗教であると言われる。そして、…

小林よしのり『靖国論』(2)

[読書] 小林よしのり『靖国論』(幻冬舎 05.8.1) 小林氏の『靖国論』には、特攻隊員の遺書が繰り返し引用される。どれも、親や兄弟への愛惜の情、生まれ育った故郷の懐かしさなどが、簡潔に綴られている。その真摯な文章を読むとき、本来は生きるべきであった…

小林よしのり『靖国論』(1)

[読書] 小林よしのり『靖国論』(幻冬舎 05.8.1) 高橋哲哉氏の『靖国問題』については、宮崎哲弥氏や福田和也氏の議論を含めて、このブログで合計5回(4月21、23、26日、6月4、9日)論じた。今回、高橋氏とは対極の立場にある小林氏の『靖国論』を読み、色々と…

納富信留『哲学者の誕生』(2)

[読書] 納富信留『哲学者の誕生 −ソクラテスをめぐる人々』(ちくま新書、05.8.10) 本書第6章は、「日本に渡ったソクラテス」と題して、日本におけるソクラテス受容の問題を扱う。ソクラテスは明治初期には、知行合一を唱えた王陽明と重ね合わせて好意的に…

納富信留『哲学者の誕生』(1)

[読書] 納富信留『哲学者の誕生 −ソクラテスをめぐる人々』(ちくま新書、05.8.10) ちくま新書には、田島正樹『哲学史のよみ方』のような名著があるが、本書はまた違った意味で名著といえる。我々はプラトンを読むとき、そこに何か「哲学の理論」を見出そう…

新訳『ロミオとジュリエット』(2)

[読書] 河合祥一郎訳『ロミオとジュリエット』('05,6 角川文庫) 河合訳から、気に入った箇所をもう一つ。1951年の福田恒存訳も。第二幕2場、有名なバルコニーのシーンより。(写真は、1935年、New Theatre、ギールガッド演出、ローレンス・オリヴィエのロミ…

新訳『ロミオとジュリエット』(1)

[読書] 河合祥一郎訳『ロミオとジュリエット』(角川文庫 ’05.6) 『ハムレット』に次いで、河合氏の新訳が出た。『ハムレット』は、切れのいい狂言の科白を意識した名訳だった。『ロミ・ジュリ』は、科白の詩の形態の違いが重視されている。一箇所抽出してみ…

アベラールとエロイーズ

田島正樹氏のブログ「ララビアータ」8月8日の日記を読み、思い出すことがあった。 ↓ http://blog.livedoor.jp/easter1916/tb.cgi/29877712 田島氏は、ギリシアに由来する「自由な言論」の伝統の一例として、中世の哲学者アベラールの「弁証法」について述べ…

上毛新聞に書いたコラム(4)

[上毛新聞コラム] 「視点」 2005年7月18日掲載 新しい仕方で作ろう――― 良い人間関係 植村恒一郎 「ニート」を初めとして、「人間関係が苦手」な若者が増えているといわれる。世の中に「濃密な人間関係」が減ってきたともいわれる。確かにそうなのかもしれな…

歌舞伎版『十二夜』

[演劇] 7.16昼の部 シェイクスピア『十二夜』 蜷川幸雄演出 歌舞伎座 (1) 小田島雄志訳をもとに、今井豊茂の脚本。全体を三幕に分ける完全な歌舞伎形式。ヒロインのヴァイオラは「琵琶姫」、伯爵令嬢オリヴィアは「織笛姫」、オーシーノ公爵は「大篠左大臣」…

モスクワ室内歌劇場『魔笛』

[オペラ] 7.8 モスクワ室内歌劇場公演『魔笛』 新国立・中ホール (1) ロシアの名演出家ボリス・ポクロフスキー(今年93才!)が昨年9月に初演したもの。オペラの演劇的側面を強調し、小劇場向けに作られた見事な舞台。歌手はオケ・ピット前の客席最前列通路に…

永井均『私・今・そして神』(9)

[ゼミナール] 永井均 『私・今・そして神』 (04年10月、講談社現代新書) 6月27日のゼミから。「私の分裂」(p120-4)についての、私(charis)の議論。 (1) パーフィットの「自我の増殖」は理解できる。「一人の人間が二人になる」というより、「二人の人間が…

ポス・コロ風(?)『蝶々夫人』

[オペラ] 6.27 プッチーニ『蝶々夫人』 新国立劇場 オケは東フィル。栗山民也のポスト・コロニアル風(?)演出が光る。よくある日本の様式美の強調ではなく、完全に現代演劇の舞台だ。舞台全体が、大きな円形の石の壁。円形の壁に沿ってゆるやかな階段があり、…

『アルトゥロ・ウイの興隆』

[演劇] 6.25 ベルリナー・アンサンブル『アルトゥロ・ウイの興隆』 新国立・中 ブレヒトの原作を、ハイナー・ミュラーが改変・演出。素晴らしい傑作だ。ドイツの名優マルティン・ヴトケが凄い。というより、彼がヒトラーを演じなければ、こうはいかなかった…

シャウビューネ公演『ノラ』

[演劇] シャウビューネ公演:イプセン『ノラ ―人形の家より』 世田谷PT 友人二人と観劇。ベルリンの人気劇団。若手の演出家オスターマイアーの演出。1879年の原作『人形の家』を現代に移したリメイク版。科白と筋はほとんど原作に忠実だが、最後にノラが家出…

永井均『私・今・そして神』(8)

[ゼミナール] 永井均 『私・今・そして神』 (04年10月、講談社現代新書) 今日のゼミでは、第2章「ライプニッツ原理とカント原理」の前半を扱った。G氏のレポートを中心に議論。以下、議論になった論点として、「私の分裂」について。 (1) 「私の分裂」(p1…

「フェミニズムと戦争」シンポ

[学会] 6/11 日本女性学会・第11回大会 シンポジウム 横浜国大 私は学会員ではないが、興味深いテーマなので聴講。パネリストと報告は、(1)「兵士でありかつ女性である女性兵士をとりまく実情の批判的検討」佐藤文香(一橋大学)、(2)「<前線/銃後>のモザイ…

福田和也氏の「A級戦犯」論の誤り

[書評] 『週刊新潮』6月16日号 「小泉・靖国参拝問題特集」 『週間新潮』は、「小泉<靖国参拝>私はこう考える」と題して、21人の著名人の賛否の意見を載せている。この雑誌にしては意外にも、参拝反対意見が少なくない。が、それとは別に、参拝賛成派の福…

宮崎哲弥氏の『靖国問題』書評

[書評] 高橋哲哉『靖国問題』に対する宮崎哲弥氏の書評について (私の『靖国問題』書評は、amazonの他、本ブログ4.21/4.23/4.26に3回ある) 『諸君』7月号の書評欄に、宮崎哲弥氏が高橋氏の『靖国問題』を「今月のワースト」に挙げ、次のように書いている。…

永井均『私・今・そして神』(7)

[ゼミナール] 永井均 『私・今・そして神』 (04年10月、講談社現代新書) 今日のゼミは、第1章8「神と脳の位階について」と9「神の数は数えられない」を扱う。大学院生N氏の力作レジュメから論点を拾う。今回で第1章は終り。6月6日は「学祖祭」なので、…

上毛新聞に書いたコラム(3)

[上毛新聞コラム] 「視点」 2005年5月24日掲載 仕事で評価されるべき ―――(女性性の表現) 植村恒一郎 この三月に卒業した教え子たちから、近況のメールが届く。どれも「想像していたより大変です」とあり、早く仕事を覚えようと頑張っている姿が目に浮かぶ…

永井均『私・今・そして神』(6)

[ゼミナール] 永井均 『私・今・そして神』 (04年10月、講談社現代新書) 今日は、第1章6「5分前世界創造説と昨夜私創造説」と、7「私を創造する力のある神」を扱った。この2節は、これまでの議論で用いられた概念に新しい区別を立て、議論が変容する重…

永井均『私・今・そして神』(5)

[ゼミナール] 永井均 『私・今・そして神』 (04年10月、講談社現代新書) 今日は、第1章5「神だけがなしうる仕事」を巡って院生諸君の活発な議論。神の仕事は、「人間には識別できないが、理解はできること」に関わる、という永井の定義は素晴らしい。パ…

蜷川『メディア』

[演劇] 5.15 エウリピデス『メディア』 蜷川幸雄演出 コクーン 主演のメデイアは大竹しのぶ。数年前のギリシア国立劇場の東京公演の際、蜷川は「自分がやった方がうまい上演ができる。子供は人形ではなく本物を使うべきだ」という批評を書いた。だが、ギリシ…