2007-01-01から1年間の記事一覧

ミリカン『意味と目的の世界』(3)

[読書] ルース・ミリカン『意味と目的の世界』(信原幸弘訳、勁草書房、07年1月刊) (図は、ミツバチの8の字ダンス。蜜が遠いところにある場合のダンス。中央の蛇行部分の線が太陽との間に作る角度によって、蜜の在り処の方向を示し、一巡に要する時間が蜜まで…

ミリカン『意味と目的の世界』(2)

[読書] ルース・ミリカン『意味と目的の世界』(信原幸弘訳、勁草書房、07年1月刊) (写真は、原書Varieties of Meaning,2004の表紙。ミリカン自身の顔写真が使われている。顔写真の表象性は本書の主題とも直結しており、この顔をルース・ミリカンと知らない人…

ミリカン『意味と目的の世界』(1)

[読書] ルース・ミリカン『意味と目的の世界』(信原幸弘訳、勁草書房、'07年1月刊) (写真は著者近影。コネティカット大学名誉教授。) 非常に興味深い本だったのでコメントしたい。バクテリアから人間の意識に至る進化の過程を、「表象」という一貫した構図で…

フォッセ『死のバリエーション』

[演劇] ヨン・フォッセ『死のバリエーション』三軒茶屋・シアタートラム ヨン・フォッセは1959年生れのノルウェーの作家(写真右)。戯曲はヨーロッパで人気を博しており、今回の上演も、フランス人のアントワーヌ・コーベによる演出。今までに一度も見たこと…

ザルツブルク音楽祭『ドン・ジョバンニ』

[DVD] 2006ザルツグルク音楽祭ライブ『ドン・ジョバンニ』 (写真右は、レポレロとジョバンニを追い詰めるオッターヴィオ、ツェルリーナ、エルヴィラ。) (写真下は、ジョバンニ) (中央がレポレロ、右端がドンナ・アンナ。) (マゼットを組み伏せるジョバンニ…

黒テント『かもめ』

[演劇] チェホフ『かもめ』 劇団・黒テント公演 神楽坂・iwato劇場 (写真下は、1889年、モスクワ芸術座『かもめ』公演。左はニーナ。右はトリゴーリンを演じるスタニスラフスキ。) チェホフ劇の登場人物はみな、自分の悩みを聞いてもらうことには熱心だが、…

映画『パリ、ジュテーム』

[映画] 『Paris, je t'aime』 新宿武蔵野館 マイナーな映画にも、味わい深く、良いものがある。今日、上映最終日なので『パリ、ジュテーム』を観た。18人の監督が「パリの街」をテーマに、たった5分間で作った映像を集めたオムニバス映画。だが、とてもよく…

四月大歌舞伎を観る

[演劇] 四月大歌舞伎(夜の部) 4月12日、歌舞伎座 (写真左2枚は中村勘三郎、右は、プログラム表紙の錦絵) 私が勤務する大学の美学美術史学科では、毎年、新入生オリエンテーション旅行は東京に一泊して、歌舞伎と美術展を鑑賞する。今年も教員と学生が一緒に…

ナボコフ『ロリータ』

[読書] ナボコフ『ロリータ』(若島正訳 新潮文庫、2006年11月) (写真は、1987年、全日空の「スポーツ・リゾート沖縄」キャンペーンのポスター原画。野生的で少年のような顔と、やや直線的で二つの三角形を思わせる幾何学的な身体構図は、いかにもスポーツ美…

『マクベス’07』

[演劇] シェイクスピア『マクベス'07』 栗田芳宏構成・演出 国立能楽堂 (写真右はマクベス(市川右近)とマクベス夫人(市川笑也)。写真左は三人の魔女とヘカテ(藤間紫)。2006年度公演) 『マクベス』を能舞台で上演する面白い試み。初演は2004年だが、演出を少…

モンテーニュとお酒

[読書] モンテーニュとお酒 久しぶりに『エセー』を流し読みしていたら、お酒の話が出てきた。我が敬愛するモンテーニュ先生は「私は、普通の体格の人間としてはかなりよく飲む」(五、p188)と言っているから、酒好きだったのだろう。通ぶらない、率直なもの…

土田英生『橋を渡ったら泣け』

[演劇] 土田英生作『橋を渡ったら泣け』 渋谷コクーン 土田英生は劇団MONOを主宰する若手の劇作家。この作品は2002年にMONOで上演されたものの再演。演出は生瀬勝久、俳優は、大倉孝二、奥菜恵、八嶋智人、小松和重など、それぞれに個性的なメンバーだ(写真…

長野順子『魔笛』

[読書] 長野順子『オペラのイコロジー3・魔笛』(ありな書房、2007年1月刊) (以下は、『図書新聞』第2814号、3月17日に私が書いた書評です。図書新聞社の了解を得て、以下に転載します。写真は表紙より。1815年、フリードリッヒ・シンケル演出の舞台スケッチ…

『テヘランでロリータを読む』(3)

[読書] A.ナフィーシー『テヘランでロリータを読む』(市川恵理訳、白水社、2006年9月刊) 本書は我々に「文学と現実の関係」という重い問いを投げかけている。ナフィーシーは、読書会で選んだ作品の作者はいずれも「文学の決定的な力を信じている」(p33)と述…

『テヘランでロリータを読む』(2)

[読書] A.ナフィーシー『テヘランでロリータを読む』(市川恵理訳、白水社、2006年9月刊) (写真は、本書の中国語訳、イタリア語訳、そして著者近影) 本書には、ナフィーシーの教え子たちがたくさん登場する。男子学生はほとんどがイスラム主義の活動家だが、…

『テヘランでロリータを読む』(1)

[読書] A.ナフィーシー『テヘランでロリータを読む』(市川恵理訳、白水社、2006年9月刊) 優れた本なのでコメントしたい。1995年のある日、イラン人の女性英文学者である著者アーザル・ナフィーシーは、テヘランの自宅に優秀な女子学生だった教え子たちを集め…

永井均『西田幾多郎』(5)

[読書] 永井均『西田幾多郎』(NHK出版)[写真は、文学座が演劇化した「おーい幾多郎」(2004)のポスター] 私にとって永井氏のたまらない魅力は、その醒め切ったニヒリズムにある。『倫理とはなにか』は氏のそうした資質が遺憾なく発揮された名著であるが、…

永井均『西田幾多郎』(4)

[読書] 永井均『西田幾多郎』(NHK出版) 永井氏によれば、西田はウィトゲンシュタインとは逆に、経験は言語とは独立にそれだけで意味を持ちうると考えていた。西田が「純粋経験」を語る言語は、経験の外部から手に入れたのではない。「純粋経験それ自体が…

ク・ナウカ『奥州安達原』

[演劇] ク・ナウカ『奥州安達原』 宮城聡演出 新宿・文化学園体育館 (挿絵は、ちらしより。絵金『奥州安達原 四段目 一つ家』 右側の老婆は、安倍頼時の妻、岩手。臨月の女性を殺して胎内の嬰児を奪おうするが、この女性は実は自分の娘だったことが後で分か…

ジャン・アヌイ『ひばり』

[演劇] アヌイ『ひばり』 蜷川幸雄演出 渋谷コクーン ジャン・アヌイの代表作の一つ(1953年作)で、ジャンヌ・ダルクの物語。ジャンヌ・ダルク裁判については、ドライエル『裁かるるジャンヌ』とブレッソン『ジャンヌ・ダルク裁判』という名作映画があり、ま…

永井均『西田幾多郎』(3)

[読書] 永井均『西田幾多郎』(NHK出版) [12月からずっと、身内二人と自分の病気など立て続けでしたが、やや落ち着いたので、また少しずつ更新します。] 西田の「自覚」について、p48以下で永井氏は、西田の「場所としての私」「与格としての私」「無の場…

野田秀樹『ロープ』

[演劇] 野田秀樹『ロープ』 渋谷コクーン (写真は、ソンミ村虐殺事件。犠牲者504名のこの名簿が↑、『ロープ』の最後に大きく映し出される。) 野田秀樹の舞台は、多くの素材が重層的に重ねられて物語が成立している。最新作の『ロープ』は、1968年、ベトナム…

映画『恋人たちの失われた革命』

[映画] フィリップ・ガレル監督『恋人たちの失われた革命』 東京都写真美術館 [写真は、主人公のフランソワとリリー。] 「68年パリ五月革命」を主題にした青春映画。原題『Les Amants Reguliers』は、「きまじめな恋人たち」という意味なのだろうか。2005年…