モダンスイマーズ『嗚呼いま、だから愛。』

charis2016-05-01

[演劇] 蓬莱竜太作・演出『嗚呼いま、だから愛。』 池袋・シアターイースト 2016.5.1


(写真右はポスター、下は舞台、美人の姉(中央)に惹かれる夫(左)に、妹である妻の多喜子は嫉妬する(奥))

モダンスイマーズは男5人女1人の小さな劇団。蓬莱竜太作・演出による「嗚呼いま、だから愛。」は、一幕一場という演劇の原点を踏まえながら、時間を遡行する上手い構成で、スタイリッシュで中味の濃い舞台を作り出した。物語は、結婚6年になる若い夫婦の妻が、この2年間セックスレスであることの不満を夫にぶつける。大量のポルノDVDを夫の部屋で見つけたのだ(写真下)。そこに女優で美人の姉や、やはり美人の友人が夫を連れてやってきて、明後日フランスへ移住する彼らの送別会を開くことになる(写真下↓)。妻の仕事関係の(雑誌の四コマ漫画だが、ほとんど売れない)編集者や、妻のアシスタントの美大出の女の子も出入りする。夫がセックスレスのことを軽いノリでしゃべってしまい、笑い話にしてしまったのを妻が怒り、友人たちも含めてそれぞれの浮気もバレて、激しい葛藤の場になる。男たちは例外なくヘラヘラと笑って、とぼけて、かわそうとするが(その感じが実にうまい!)、女たちは本当に怒る。

いかにもありそうな今時の若者夫婦だが、主人公の多喜子は容姿コンプレックスを抱えており、それに周囲は同情しているが決して言わず、むしろ優しく多喜子に接することで、しかしそれこそがまさに多喜子を苦しめるのだ。多喜子は言う、「みんな私に同情してくれるが、誰も本当に私を愛してくれない」。これが本作の主題であり、深く重いテーマだ。実際には、多喜子は自分が思うほど「ブス」ではないのだが、頑なにそう思い込んでおり、アシスタントの女の子が自分の似顔絵を美しく描いたのに怒りを爆発させて、彼女を追い出してしまう。自分を「ブス」と思っている女子には、誰もが「そんなことないよ、君はかわいいよ」と言うが、そういう「思い遣り」や「気配り」がかえって本人を苦しめる。多喜子は「自分は編集者の石井さんと二度寝た」と告白するが、夫はぜんぜんショックを受けず、「いや、いいんだよ、君は悪くない」とヘラヘラしている。これも多喜子を傷つける。といって、美人の姉のように、「要するにアンタはブスなのよ、ブスだからもてないだけ、だから人をやっかんでいるのよ。でも社会はそうなってんだから、仕方ないじゃん、それを認めないアンタが悪い」と正直に言えばよいというものではない。こう言われれば多喜子は泣くしかない。観客の中にもすすり泣いている人がたくさんいた。


演出は、時間を遡行させながら、巧みに前後させるという手法が素晴らしい。とりわけこの主題では、過去のトラウマのようなものが重要なので、これはとても効果的だ。女優は、ほどんどが客演だが、モダンスイマーズの男優たちを含めて、演技は非常に上手い。いかにも自然で、どの場面も「ある、ある」感にあふれている。劇場は、若者で一杯(オペラと違う)、全席完売。蓬莱竜太は初見だが、優れた劇作家だと思う。


下記に団員による公演PVが。舞台ではないが、6名の若者による小さな劇団ぶり。蓬莱竜太もいます。
https://www.youtube.com/watch?v=sqhA5d6QAKc