上田三四二(1)

私の愛読書に、大岡信折々のうた』があります。私もいつか、自分の好きな短歌、俳句、詩を集めたアンソロジーを編みたかった。それを少しづつ始めます。いわば私家版「うたの歳時記」。「ディキンソン詩集」「ウェンディ・コープ詩集」のような外国詩の試訳も含めて、名前の後に番号を付けます。好きな詩人は番号が増える。今日は、好きな歌人の一人、上田三四二(みよじ)[1923-89]から。


上田三四二 『涌井』『鎮守』『照径』『雉』より


ちる花はかずかぎりなしことごとく
光を引きて谷に行くかも


遠野ゆく雨夜の電車あらはなる
灯の全長のながきかがやき


遠つ灯は雪をへだててまたたけり
雪しげければまたたきしげき


街灯のひとつがながくはじらひの
またたきをしてのち点りいづ


眉根よせて眠れる妻を見おろせり
夢にてはせめて楽しくあれよ


[鑑賞] 第一首は彼の代表作。吉野での作。「桜」を詠んだら、やはり佐太郎と三四二が第一人者でしょう。二〜四首まで含めて、彼の詠む基調は「光」にある。光の微妙な動きときらめき。最後はいかにも彼らしい相聞歌。