[演劇] 10.14昼 黒テント「ぴらんでっろ」 中野光座
ノーベル賞作家ルイージ・ピランデッロが、1921年に書いた戯曲「作者を探す六人の登場人物」を新訳で。演出と主演は斉藤晴彦。難解だが面白い作品だ。20世紀の演劇を変えた重要作という。
オイディプス王の練習をしている劇団に、喪服を着た6人の人物が突然現れる。彼らは、自分たちは劇の登場人物なのであり、「作者のいない作中人物」だと名乗る。彼らの身の上話は、人間臭い家庭内の愛憎劇にすぎないのだが、彼らの「実演」に、プロのはずの演出家や劇団員がだんだんと巻き込まれてしまう。そのうち、誰が劇をやっているのか、何が素材で、何がそれを表現=演技に転換したものなのかが分らなくなる。芝居の内部と外部の区別が消滅してしまったのだ。最後は演技のはずだった子役二人が、本当に死んでしまい、大混乱のうちに幕が閉じられる。後年の寺山修司の実験演劇に一脈通じる。
昔からある「劇中劇」でもなく、イプセンやチェーホフの近代演劇の線から大きく逸脱している。といってベケットのように「不条理劇」として洗練されてもいない。その中途半端なドタバタ性が、何ともいえない魅力なのだと思う。「作者のいない作中人物」という設定は面白い。作者の「意図」が存在しないので、演出や表現の方向性も定まらず、何かが宙に浮いたままになる。混乱が収束するのではなく、どんどん高まったあげく、偶然によって終わらされるところに、優れた寓意性がある。
いつもながら主演俳優はすごくうまい。群馬県立女子大12期の畑山佳美も、母親役で健闘した。