佐藤佐太郎(2)

9月29日に続いて、佐太郎の短歌。戦後の苦しい生活の中で詠んだ歌を、歌集『立房』(1947)、『帰潮』(1952)から選ぶ。自然の「写生」の中に佐太郎の「心」が映し出されるが、歌の格調の高さは、生活苦によっていささかも損なわれない。


みじかなる焔燠よりたちをりてこのいひ難きいきほひを見ん


近き音遠きおと空をわたりくるこの丘にしてわがいこふ時


あぢさゐの藍のつゆけき花ありぬぬばたまの夜あかねさす昼


戦はそこにあるかとおもふまで悲し曇のはての夕焼


秋分の日の電車にて床にさす光もともに運ばれて行く


[鑑賞] 第一首、「燠(おき)」とは、赤く燃えた炭火。焔(ほのほ)の「短さ」を捉えた卓抜さ。第二首、苦しい心情が昇華される。第三首、古い歌語の使用は珍しい。眼前の紫陽花を心の時間の中に置く。第四首、夕焼に「戦(たたかひ)」を思い出してしまう、戦争の記憶。第五首、「光もともに運ばれ」る心の安らぎ。