酒井順子『負け犬の遠吠え』

[読書]  酒井順子『負け犬の遠吠え』(講談社 2003年10月)


キャリア科目で「女性のライフサイクル」を講義するので、論点摘出。本書には多くの批判が寄せられたが、むしろ積極面を重視したい。


(1) 男女の非対称性という深い問題に触れている(p134f.)。男の価値は仕事ができることとみなされているので、仕事のできる男は独身であっても、「男として不幸、尊敬できない」とは言われない。女は仕事とは別の「女性性」を要求されるので、どんなに仕事ができても独身だと、「優秀だけど、女性としては不幸だわねぇ」と陰口をたたかれる。この不平等性は、優秀な「負け犬」の数がまだ少ないので、人間存在のモデルとして認められていないからだ。仕事で男を凌駕する女が増えれば、プラスアルファとしての「女性性」の要求は後退せざるをえない。


(2) 負け犬の「純粋さ」(p148f.)。虎視眈々と男を狙う貪欲さに欠けている。いくら金持ちでも好みでない男と我慢してセックスをすることは耐えられない。自己の「美意識」を優先する生き方が可能になったのは、「子供をそれほど産まなくてもやっていける社会」が到来して、結婚への圧力が減ったから。この方向は不可逆だろうし、非常に好ましいことだ。男女の結婚が必然でも自明でもなくなるのは、人類史の一頁を画することだ。


(3) 日本の場合、男は自分より優秀な妻を望まない傾向があるから、優秀な女と優秀でない男は配偶者を得られない(合コンの法則)。個人の問題ではなく、マクロの現象としてそうならざるをえない。「負け犬」は、もっともっと自信をもって生きてほしいと思う。