「喪服の似合うエレクトラ」

[演劇] 11.19  オニール「喪服の似合うエレクトラ」  新国立中H


演出は栗山民也、主演は大竹しのぶ(ラヴィニア=エレクトラ)。アイスキュロスの「オレステイア三部作」を、南北戦争時のアメリカに置き換えて、家族の愛憎劇としてリメイクしたもの。日本での本格的な上演は今回が初めてという。

とにかく見るだけで疲れる。最初から最後まで、ほとんど罵り合いの絶叫調の科白が続く。ギリシア悲劇では三つの別の作品だった「アガメムノンの帰還と殺害」「エレクトラ姉弟の母と愛人殺害」「オレステスの発狂」を、三幕に統合したのだから、こうならざるをえない。構成自体に無理があり、失敗作だと思う。オニールのノーベル賞受賞によっても、そのことは変わらない。

アリストテレスの「三一致の法則」ではないが、ある程度の時間的な過程をもつはずのものを一挙に凝縮することは不自然。オニールは「ギリシア悲劇にもとづく現代の心理劇」だと書いているが、一家族の中にこんなに殺人が続いて起きれば、心理劇も何もあったものではない。「動」だけあって「静」のないところに、「心」を深く描くことはできない。強く様式化されていたギリシア悲劇を、様式のない現代劇に変換したために、「怒り狂ったメロドラマ」になってしまった。

大竹しのぶの演技はたしかに凄い。エレクトラの内面に抑圧されていた性的なものが一挙に噴き出して、違う女に変身するところなど、原作にはないエレクトラ像はたしかに面白いのだが・・・。