ワルシャワ室内Op「魔笛」

[オペラ] 12.11 モツァルト「魔笛」 ワルシャワ室内歌劇場 東京文化会館

モツァルトの全オペラを恒常的に上演できる歌劇場とのこと。色々と発見があった。まず、「魔笛」の音楽の最良の部分は、パパゲーノを軸としていること。全体にアリアよりも重唱に生彩があり、アリアの場合もオケがたんなる伴奏ではなく、オケと歌が掛け合うデュエットの趣があること。

夜の女王なんて、ただキンキン歌うだけで、ちっとも良くない。それに比べるとパパゲーノの音楽は、天と地ほども違う。旋律に「魔法のような軽快さ」があり、音楽が鳴っただけで世界が浄化される。パパゲーノは「未開人」などではなく、作品の主人公だと指摘したキルケゴールは、同時代の批評の中でも傑出していたわけだ。第一幕、パミーナとの二重唱、グロッケンシュピールによって追っ手の役人たちが踊り出すシーン、第二幕、ワインを飲んで「女房ほしいよ」と歌うアリア、自殺を止められてグロッケンシュピールを鳴らし、パパパに移行するシーン。この四箇所は「魔笛」の音楽の頂点ではなかろうか。もう一つあげるなら、タミーノの笛で動物たちが踊りだすシーン。そして今回、三人の童子の音楽がかくも美しいことに驚かされた。

徳の高い王子や王女が救済されるだけなら、ありきたりの物語でしかない。「魔笛」では、けもの、鳥刺し、「野蛮人」など、いやしいものを含む存在者すべてが浄化される。全編に溢れる異教的雰囲気は、浄化の普遍性に対応している。そして、その浄化の奇蹟は、タミーノの笛よりは、むしろパパゲーノのグロッケンシュピールによって生起する。カーテンコールのラストから三番目にパパゲーノが来るという順位はいただけない。彼こそ最後に最大の喝采を受けるべきなのに。歌手の出来としては、パミーナ役のウクライナ人、パシェチニックが良かった。