誓子(1)

[俳句]    山口誓子(1)

「美学日誌」のはずだったが、どうも「論」に傾きがちで、好きな詩歌の私家版アンソロジーはなかなか進まない。ゆっくり読み返してからと思ったが、日誌の課題として「鑑賞」しながら読み返してゆきたい。好きだけれど、けっして真似のできない俳人の一人は、誓子。感覚がシャープすぎて、誰の追随も許さない。



海に出て木枯帰るところなし


炎天の遠き帆やわがこころの帆


夏氷挽ききりし音地にのこる


手袋の十本の指を深く組めり


海の門や二尾に落つる天の川


[鑑賞] 第一句(1944)は神風特攻隊を、第二句('45)は敗戦直後の情景を詠んだ句。どちらもある意味では誓子らしくないかもしれないが、心に沁みる。第三句('40)は、最近自分が実家の下北沢近くで、氷屋(製氷小売店)が昔のまま営業しているのを見つけたので思い出した。まさかこの句のように、自転車かリヤカーの氷をノコギリで切って売るわけではないだろうが。第四句('35)も物の質感が見事。第五句は1926年以前で、誓子のもっとも初期の作品。少年期の樺太の光景かもしれない。