映画『せかいのおわり』

charis2005-09-11

[映画] 風間志織監督『せかいのおわり』  渋谷 シネ・アミューズ 


気分転換に映画館に行く。1月の『シルヴィア』以来だ。インディペンデント映画で、観客も少なかった。でも、なかなか味のある映画だ。東京で小さな観葉植物店をやっている二人の若者のところに、一人の女の子が転がり込んでくる。三人の共同生活が始まる。が、思いは微妙にすれ違って恋は成就しない。つまりは、切ないコメディー。バイセクシュアルで冷静な店長(長塚圭史)。少し頼りないが、いつでも誰にも優しい、同僚の慎之介(渋川清彦)。等身大のふつうの女の子にしか見えないが、どこか天然ボケ風で自己中心的な、はる子(中村麻美)。三人のキャラが絶妙なトライアングルを作る。[写真は、慎之介とはる子。美形の彼氏に妻があることが分り、呆然と夜道を徘徊するはる子を、慎之介はどこまでも付き添って慰める。]


この映画はどこか、ジャームッシュの『ストレンジャー・ザン・パラダイス』に似ている。優しい男の子二人が、突然転がり込んできた女の子に振り回されるという物語。自己本位な女の子に、男の子が尽くす。そして、若者たちはあまりしゃべらず、会話が淡々としている。こんなところが共通点か。違うのは、女の子のキャラクターだ。どこまでもストレンジャーであるエバは、徹底してノンシャラントであるのに対して、はる子は、いつも愛情に飢えて、一人ではいられない性格だ。それを慎之介が一方的な優しさで補償する。ずっと慎之介をそでにしてきたはる子も、美形の彼氏に裏切られた直後は、慎之介の胸に飛び込む。が、疲れきった慎之介は、ベッドで彼女を抱いたとたん睡魔に負けて、男子の本懐は遂げられない。ここのコミカルな設定はとてもうまい。


翌朝目覚めてみると、はる子は置手紙をして、もう家にいない。そでにされた慎之介は、突然、狂ったように暴れだし、観葉植物を叩き壊す。このシーンは、まるでチェホフのワーニャ叔父さんのようだ。優しさの下で抑圧されてきた感情が爆発するという、チェホフ的な要素が含まれるので、この物語は、ジャームッシュのように徹底して「乾いた」物語にはならなかった。でも、それでよいのだ。ある漫画家は、この映画を、「きれいでかわいらしい、そして毒もある、よくできた少女漫画みたい」と評していた。