二期会『さまよえるオランダ人』

charis2005-11-03

[オペラ] ワーグナーさまよえるオランダ人
デ・ワールト指揮、読響、渡辺和子演出、
二期会公演、東京文化会館


(写真は、1933年、「ドイツ帝国」の切手の図柄。左側に2Reichspfennig、上部に「さまよえるオランダ人」とある。)


2時間15分という短い作品だが、ワーグナーは苦手な私にはこのくらいがちょうどよい。ワーグナーの実演を見るのは本当に久しぶりだ。1841年、ワーグナー28歳の作品。台本の原作は、ハイネがまとめた伝承らしい。幽霊船で海上を彷徨うことを運命づけられたオランダ人船長は、7年ごとに港に寄る。そこで「永遠の愛を誓う」女性と結ばれれば、彼は救済されるという物語。嵐で流されたある入り江で、ある船長の娘ゼンタと出会うが、ゼンタが裏切ったと誤解したオランダ人船長は出帆し、後を追ってゼンタは死ぬ。今回の演出は、二人が死後、天国で救済されるという後年の「ハッピーエンド・バージョン」ではなく、ゼンタが死んで終りという最初の「残酷バージョン」に忠実なものだそうだ。


「永遠の愛を誓う女性によって、悪魔の呪いから救済される」という主題は、いかにも精神分析的だ。すでに1911年に、フロイト派の雑誌は『さまよえるオランダ人』を分析している。今回の公演でも、ゼンタという娘がとても興味深い。彼女は、多くの乙女たちが糸を紡いでいる中、一人だけそうした日常的な労働を軽蔑し、伝説の「さまよえるオランダ人」の彫像に恍惚となっている。極端に夢想的で、巫女のような女性だ。糸紡ぎの乙女たちや、ネクタイを締めた船員の青年たちが、明るく健康的なのに対して、オランダ人とゼンタだけは、この世の人間とは思えない、暗い寓意のような神話的存在に見える。二つの対極的な世界が、ワーグナーの、あの「気の遠くなるような音楽」によって不思議な融合を遂げる。


東京公演だけで4回、今日もほぼ満席だったから、ワーグナーファンは多いのだ。オペラファンには、(1)モーツァルト派、(2)イタリアオペラ派、(3)ワーグナー派と三種類あって、互いにあまり共感をもたないという話を聞いたことがある。少なくとも(3)は、他の人たちとはちょっと違うようだ。