プラハ国立劇場『フィガロ』

charis2006-01-17

[オペラ]プラハ国立劇場公演『フィガロの結婚府中の森芸術劇場


この劇場の正式名称はスタヴォフスケー(=貴族)劇場といって、モーツァルトプラハで数々のオペラを上演した劇場がそのまま今も続いている(写真)。その日本公演。


演出に色々と工夫をこらしている。第三幕冒頭の伯爵が、夫人とスザンナを伴って屋外でゴルフをしているのが、旨い設定。「陽気でのぼせた」夫人のために薬をというのが、スザンナの口実。全体に歌手の声量が豊かで、楽しめる舞台になっている。スザンナ役のマルティナ・ザドロはクロアチア人だ。水色の衣服がひときわ映える。ケルビーノ(パヴラ・ヴィコパロヴァー)も純白の衣服がまぶしい。そして伯爵夫人の深紅のドレス。色彩のバランスがとても良いのだ。オケはやや「東欧風」というか、弦楽器の低音の響きが厚い。


かつてヘーゲルは、「アリストパネスを読まない人は、人間がどこまで快活になれるか分らないかもしれない」という、卓抜なオマージュを捧げた。それに倣って言うとすれば、「我々はフィガロによって、美と幸福が最高の姿で結びつくのを見る」。美は、カントが述べたように、快の感情を伴うが、それは感覚の直接刺激から生じる感情ではなく、感覚が「想像力の自由な遊び」を触発し、その「遊び」によって心に生じる「調和」が快いのだ。


では幸福とは何だろう。幸福もまた、おそらく単一な感情ではなく、生の内に生じる「調和」に媒介される感情なのではないか。今回、伯爵夫人(イトカ・スヴォボドヴァー)の二つのアリアが特に印象に残った。彼女は深い悲しみを歌うが、その余韻が、次に続く喜びをいっそう輝かしいものにする。第二幕のアリアに続くのは、ケルビーノの「恋とはどんなものかしら」だし、第三幕のアリア以降は、架空の浮気を相談する「そよ風の二重唱」、村娘たちの天国的な合唱、そして行進曲風の結婚式シーンと続く。違うタイプの音楽に転調することが、息の長い大きな調和を作りだすのだ。「異質なものを共存させる息の長い調和」、これが美と幸福を結びつける。