内田樹『9条どうでしょう』(1)

charis2006-04-04

[読書] 内田樹ほか 『9条どうでしょう』
      (06年3月、毎日新聞社)


(挿絵はモンテーニュ像)


内田樹氏はモンテーニュに似たところがある。どんな話題もこなせること、「私こそ知っている」という知の確信形に懐疑的なこと、モンテーニュプロテスタント原理主義を嫌ったように、原理主義的思考が嫌いなこと。そして何よりも、判断力が冴えている。内田氏のブログを読むのを楽しみしている人は多いだろう。彼の主張には同意しない場合でも、その桁外れの体力、うるわしい友情、豊かな社交性、何ともいえない男っぽさなど、人間ウチダの魅力が伝わってくる。私はいつも、羨ましいなぁと思いながら読むけれど、読んだ後の”後味の良さ”は格別だ。


4月3日の朝日新聞の記事も素晴らしかった。昨年の首相の靖国参拝問題の時は、やや”高踏的な戦術”を取ったので、賛成派・批判派のどちらにも水を掛けているだけのように受け止められた。私は、結果として賛成派により多くの水が掛かったように感じたが、そうは受け取らない批判派もあったようだ。今回はそれと違って、一点に絞った明快さが印象的だ。藤原正彦氏の『国家の品格』への批判だが、要するに、「国の品格について、自分で言っちゃおしまいだよ」ということ。日本に品格があるかどうかは、他者の判定にゆだねるべきもので、とりわけ日本の中で生活している他者、たとえば「在日」の人々が言ってこそ本物なのだ。「武士道精神にもとづく、本来の日本には品格がある」などと、日本人がいくら言っても自己満足にすぎない。「藤原氏は、本書が英語、中国語、韓国語に訳されて、それぞれの国の人々に読まれる可能性を勘定に入れていないのではないか。その視野の狭さにいささかの危惧を覚える」という内田氏の批判は、「品格」を語る言説にあってほしい「品格」について、問題の本質を突いている。


さて、出版されたばかりの『9条どうでしょう』を、興味深く読んだ。内田氏のブログによく名前が登場する”悪友”3人と一緒に作った本で、独立した4編の論考からなる。内田氏以外は学者ではないが、皆さん、「現実と渡り合う鋭い嗅覚」を持った方々のようで、なかなか面白く読ませる。そしてサヨクでもない(?)4人が、「憲法第9条を変える必要はない」という結論において一致する。内田氏の論考が一番「過激な」タームに満ちているが、内容はとても良い。憲法第9条自衛隊の存在と「込み」になっており、一見すると互いに「矛盾する」両者が、実は「双子」であるところに、9条の歴史的偶然性があり、戦後の日本はこの「矛盾」を上手に内面化して、それを引き受けてきたという主旨。出かける時間になったので、続きは明日。