城繁幸『若者はなぜ3年で辞めるのか?』

charis2006-09-26

[読書] 城繁幸『若者はなぜ3年で辞めるのか?』(光文社新書)


(写真は、雇用法改正に反対してデモをするフランスの大学生。)


現在、大学では学生の就職が大きな問題になっている。インターンシップなど、自分と就職先の「ミスマッチ」を減らすように、さまざまな試みがなされている。というのも、大卒の新入社員の3割が3年以内に離職するという現実があるからだ。本書は、その根本的な原因を探究し、若者の視点から、日本社会の標準モデルである年功序列を批判した興味深い本である。著者は1973年生まれ、東大法卒、若くして富士通の人事部で「成果主義」の導入に関わった専門家である。


著者によれば、「成果主義」が導入されても、日本における給与体系の原則は、標準モデルである年功序列から大きく動いていない。しかしその実態は、大きな矛盾が噴出している。年齢とともに昇進・昇給する年功序列は、経済が拡大してポストが増えるならば合理的な制度だが、不況下では、人件費削減という至上命令のために、昇進も昇給も大幅に遅れる。若い世代の社員に鬱屈した閉塞感が広がるだけでなく、新卒の正社員採用が大幅に減って、代わりに派遣社員が増え、低賃金で使い捨てされる若者が急増した。それだけではなく、運よく正社員になれた若者も、少人数で大量の仕事をこなさなければならず、猛烈に働かされる。企業は、中高年社員の雇用をある程度守らざるをえないので、その代償として、若者に二重のシワ寄せがいっている。これが、現代の若い世代を覆う”閉塞感”の正体であり、未婚率の増大や少子化の原因でもあると、著者は主張する。


大学新卒で就職した社員の35%が3年以内に辞める背景には、このような職場の大変動があり、今の若者を「ワガママで忍耐力がない」と批判するのは当たらないと、著者は言う。しかし著者は他方で、ただ状況に押し流されて、自分が働くことについての「内発的な動機」を持てない若者の弱点も批判する。年功序列は、我々日本人が暗黙裡に支持している制度であり、現在の職場に不満を持つ若者自身も、気づかないうちにそれに捉われいるので、新しい労働観がなかなか定着しない。このような著者の議論は、全体になかなか説得的だが、「全員の給料を一度ガラガラポンして」(p161)、年功序列を覆えそうというなら、まだ一つ重要論点が未検討のまま残されている。すなわち、中高年社員は妻子を養っているだけでなく、子供の教育費などの大きな負担があるから、若い世代より高い給与を必要とするのではないか? この問題がまったく触れられていないのは、なぜだろう?


日本ではパラサイトシングルも多く、ヨーロッパと違って、まだ若者のホームレスは少ない。ある意味では、親の世代の経済力が若者を保護している面もある。若者と親の世代には、こうした相互依存と利害の対立という両面がある。たしかに、日本の若者はフランス等に比べておとなしすぎる。デモもやらない。その意味で、若者の真の敵は、老人や中高年であり、若者はすべからく彼らと戦うべしという著者の主張はもっともだが、戦略としてはまだ未熟な点を残しているように思う。