『偽のアルレッキーノ』『カンパネッロ』

charis2008-03-27

[オペラ] 絨毯座公演『偽のアルレッキーノ』『カンパネッロ』  台東区生涯学習センター(浅草)

イタリアに伝わるコメディア・デラルテ(仮面を付けた即興喜劇)を取り入れたオペラの実験的上演。オケの部分はピアノが代行。20世紀イタリアの作曲家G.P.マリピエロ(1882-1973)の『偽のアルレッキーノ』(1925)と、ドニゼッティの『カンパネッロ』(1836)の二つが上演された。前者は45分、後者は70分ほどの比較的短い作品。イタリアに渡ってコメディア・デラルテの役者をしている日本人、光瀬成瑠子(上記写真)が、道化のアルレッキーノ役で、歌手とは別の演劇キャラとして舞台回しに加わる。これがとても良かった。アルレッキーノは軽業師なので、飛んだり跳ねたりの身体表現がきわめて活発で面白いのだが、しかしオペラの歌手に同じことをやらせるわけにはいかない。ここに、コメディア・デラルテを「取り入れた」オペラというものの難しさがある。本来のコメディア・デラルテは、粗筋だけが事前にあって、あとは役者が即興で演じるのだが、オケに合わせて歌うオペラはそうはいかない。『フィガロ』などのオペラ・ブッファはコメディア・デラルテの影響を受けているといわれる。笑劇の内容的な要素についてはそうかもしれないが、高度な音楽を歌うことと、軽業師的な身体表現との違いはとても大きいように感じられた。


『偽のアルレッキーノ』は、ヒロインが歌合戦で夫を選ぶという笑劇で、たしかに登場人物や筋はコメディア・デラルテだ。だが、マリピエロはドビッシーに影響を受けた20世紀の作曲家なので、音楽は、親しみやすい旋律ではなく現代音楽を思わせる。コメディア・デラルテはどうしてもある種の「泥臭さ」があるので、それと現代音楽との取り合わせが何かちぐはぐな印象を受けた。


それに比べると、ドニゼッティの『カンパネッロ』は文句なく楽しめた。薬剤師の男が結婚式を終わり、さあこれから初夜を楽しもうというところへ、客が次々にやってきて朝になってしまい、そのまま出張という笑劇。薬剤師は、緊急の客にはただちに薬を調合しなければならないと法律で決まっているからだ。次々にやってくる客は、実は、花嫁の前の恋人が変装しているだけ。それらの客は、コメディア・デラルテの類型的な人物で、薬剤師の結婚初夜を執拗に妨害するドタバタ劇が盛り上がる。ドニゼッティの音楽は、軽快で心躍る旋律に満ちており、こういう親しみやすい音楽によってこそ、コメディア・デラルテ的なものがオペラに生きるのだと思う。1836年というオペラ・ブッファ全盛の時代だからこそありえた作品だ。1925年の『偽のアルレッキーノ』が何かしっくりこないのとは対照的。