フェルメール展

[美術館] フェルメール展 東京都美術館
(「手紙を書く婦人と召使」 今回、一番気に入りました)
世界で30数点しかないフェルメールの絵を、7つ一緒に並べて見られるのは嬉しい。とりわけ、聖書やギリシア神話を題材にした初期の作品が見られたのは収穫だった。フェルメールの室内光景の絵は、じっと見詰めていると、見ている自分もまた絵に描かれた部屋の中に一緒にいるような、不思議な感じがする。この独特の雰囲気はどこから来るのだろうか。私は、フェルメールの描く人物の中でも、眼差しを下向きにした表情に、なんともいえない気品と魅力を感じた。そこには何か"瞑想的な静謐さ"のようなものがある。それがよく分かるのは、たとえば、下の二枚である。左は「マルタとマリアの家のキリスト」、右は「ダイアナとニンフたち」。

ルカの福音書では、イエスの話にじっと耳を傾けるマリア(左)に対して、かいがいしく働くマルタ(中央)が「自分だけがもてなしの準備をさせられている」と不平を言ったとされているが、フェルメールの描くマルタは下向きの眼差しで、落ち着いたとてもよい表情をしており、不満があるようにはみえない。右の絵はもっと不思議だ。中央左の黄色い服を着たダイアナ(=ギリシア神話のアルテミス)は、まったくダイアナらしくない。森を駆け回って鹿狩りをする活発な女性というよりは(足を洗ってもらっているから、狩りの後なのかもしれないが)、何かもの思いに耽っている表情だ。ニンフたちも全員うつむいており、メランコリックともいえる瞑想的な雰囲気に満ちている。神話ではなく、室内を描いた他のフェルメールの作品でも、眼を上げずに視線を落とした女性の瞑想的な表情に、人間の深い感情がとてもよく表現されているように感じた。