パーセル『ダイドーとイニーアス』他

charis2009-02-08

[オペラ] モンテヴェルディタンクレーディとクロリンダの戦い』、パーセルダイドーとイニーアス』 弥勒忠史演出、 よこすか芸術劇場

(写真右は、2004年シドニー歌劇場「タンクレーディとクロリンダの戦い」、下は、1994年ロングビーチオペラ「ダイドーとイニーアス」)

横須賀に行ったのは久しぶりだが、さすがに軍港は雰囲気が違う。真っ黒な潜水艦が4隻停泊していたが、3隻はぴったり平行にくっついて並んでおり、巨大なクジラのようだった。東京の「北とぴあ」とか、「よこすか芸術劇場」とか、自治体のホールでバロックオペラが安く観られるのは嬉しいことだ。ヘンリー・パーセルの『ダイドーとイニーアス』(1689年、「エネアス」ともいう。ウェルギリウスの『アエネイス』と同じ)を実演で見たかったので、横須賀まで行った。


珍しかったのは、モンテヴェルディの『タンクレーディとクロリンダの戦い』(1624年)だ。マドリガル集にある声楽曲で本来はオペラではないが、演技つきで上演されたようで、現存する最古のオペラが1600年のものと言われるから、オペラが成立した頃の事情が伝わってくる作品だ。十字軍の勇士タンクレーディは、回教徒の女戦士クロリンダを密かに恋しているが、ある真っ暗な夜に、二人は相手が誰だか分からないままに決闘となる。長い戦いの末、胸を剣で貫かれたクロリンダが死に際に、洗礼を受けてキリスト教徒になりたいともらし、兜を取ったタンクレーディは相手が誰だか知るという悲恋の物語。二人の歌に、語り手の歌いを加えると、短いが中味の濃い作品になる。今回の弥勒演出は、日本舞踊の女性の踊り手が、二人の決闘を踊りによって表現するもので、ムーヴァー(踊り)とシンガー(歌い)を分離する文楽様式だが、約30分間のテンションの高い舞台だった(下の写真左↓)。モンテヴェルディの歌詞は、イタリアの詩人タッソーの『解放されたエルサレム』から取られており、格調高い名作だ。


パーセルの『ダイドーとイニーアス』も素晴らしかった。トロイの王子エネアスが、トロイ陥落後、遍歴して漂着したカルタゴの女王ディドに恋するという、ウェルギリウスの悲恋物語だが、とにかく全体がとても楽しい作品なのだ。女王ディド(林美智子)も王子エネアス(与那城敬)もコミカルなキャラで、しかもディドの侍女ベリンダ(國光ともこ)は、ミーハーで「イケイケな女の子」(プログラムノートより)。そして何より面白いのは、エネアスとディドの恋を邪魔しようと画策する魔女たちが、歌って踊りまくる、実にかわいい女の子たちなのだ。物語は一応、魔女たちの画策によってエネアスは去り、ディドが自殺する「悲恋」のはずなのだが、全体が明るいミュージカルといった感じ。時間も1時間弱で、疲れない。パーセルの完全に残る唯一のオペラだが、バロックオペラの最高傑作の一つと言われるだけのことはある。オペラといっても、近代オペラのように演劇的な筋にアリア中心で構成されているのではなく、ノリのよい舞曲が続く中に、ところどころアリア的なものが挿入されるのだ。パーセルの音楽は、透明感にあふれたもので、始めから終わりまでとても優雅で気品があり、淡い夢のように美しい。36歳で夭折したパーセルの音楽を、これからもっと聴いてみたくなった。

You Tubeもありました。魔女たちのこの可愛い歌いっぷり!二つ目はイケイケ娘のべリンダです。↓
http://www.youtube.com/watch?v=fsL9KNIYP-4&feature=related
http://www.youtube.com/watch?v=CGyuW-a-l9o&feature=related

PS:東条碩夫氏のブログより当日の写真を借用して貼ります。写真右が、エネアス、ディド、ベリンダ。