モーツァルト『バスティアンとバスティエンヌ』

charis2009-10-24

[オペラ] モーツァルトバスティアンとバスティエンヌ』(東京文化会館小ホール)


(写真右は、ビートルズのメンバーが演じた舞台の絵。下は、ドイツとノルウェーの舞台写真)

モーツァルトが12歳のときに作曲したオペラ。40分強の小品だが、とても美しい作品だ。今回は、東京文化会館のオペラBOX主催、歌はドイツ語、音楽のない語り部分は日本語、オケではなくピアノ演奏だが、十分に楽しめた。


この作品は、ルソーの歌劇『村の占師』(「むすんでひらいて」の原曲)が大ヒットし、そのパクリ演劇版「バスティアンとバスティエンヌの恋」がヨーロッパ各地で上演されたものをもとに、モーツァルトが作曲して作られた。羊飼いの娘バスティエンヌが、恋人のバスティアンの心変わりを嘆いていると、いかにも田舎くさい魔法使いコラが現れて、「バスティアンに冷たくあたるふりをしてごらん」と彼女を指南する。彼女がその通りすると、動揺したバスティアンは悔いて、二人は和解する。


三人しか登場しないオペラだが、物語の素朴な味わいがモーツァルトの澄んだ音楽とよくマッチする。11歳のときの作『アポロンとヒュアキントス』もそうだが、モーツァルトの旋律がまだ複雑ではなくシンプルなので、それだけモーツァルトらしさがよく出ているとも言える。これらの小オペラは、ピアノ教本『ソナチネ』に入っている15番のハ長調ソナタが、子どものための練習曲ではあっても、天衣無縫の美しさに溢れているのとよく似ている。バスティアンとバスティエンヌがそれぞれ歌う部分が多く、重唱は多くないのだが、最後の和解の二重唱は、『フィガロの結婚』終盤のフィガロとスザンナの二重唱を思い出させる。


弥勒忠史の演出は、文化会館小ホールを上手に使っている。舞台の高さを生かした大きな細長い布を垂らすだけで、現代演劇風の何もない空間。バスティエンヌ(ソプラノ、國光ともこ)は、モンペと長靴の田舎娘から、途中でファショナブルな現代娘に変身、バスティアン(メゾ、加賀ひとみ)は一貫して宝塚の男役、そして魔法使いコラ(バリトン、龍進一郎)は、黒い僧衣の生臭坊主といった衣装の作りが巧い。普通には一緒に現れないものの取り合わせが、モーツァルトの天国的な音楽と相まって、一種の異化効果になっている。チケット3000円は安い。