新国『アラベッラ』

charis2010-10-08

[オペラ] R.シュトラウス『アラベッラ』(新国立劇場)


(演出・美術・照明をフィリップ・アルローが担当する舞台は、森英恵担当の衣装も含めて、とても美しい。色であると同時に光でもある青が、白と織り成すコントラスト。その青にもさまざまなバリエーションがある。ダンスパーティで踊るマスコットガールの「御者のミッリ」(天羽明恵)↓だけが赤の衣装で、とてもよく映える。高級ホテルの部屋の壁にはクリムトの絵。)

R.シュトラウスには、『ばらの騎士』『ナクソス島のアリアドネ』など、素晴らしいオペラが多いが、『アラベッラ』も良い作品だ。今年5月には『影のない女』、来年2月にはコンヴィチュニー演出の『サロメ』があり、最近は上演が多く、シュトラウス好きの私には嬉しい。演出のアルローは、『アラベッラ』のタイトルは『ズデンカ』であるべきだったと書いているが、そうだと思う。男装し、男の子として育てられた妹ズデンカが、プライドが高く恋愛に不向きな姉アラベッラの結婚を密かに援助し、最後は「人違い」の誤解に助けられて姉妹ともにめでたく結婚するという、ドタバタ喜劇。『ばらの騎士』をさらにもじったリメイク的作品と言われているが、偽のラブレターが書かれるところなど、どこかシェイクスピアの『十二夜』を思わせる。ズデンカは『十二夜』のヴァイオラほど洗練されたキャラではないが、自己を犠牲にして、姉の幸せのために奮闘する姿は深い共感を呼ぶ(写真、左↓)。それに比べると、アラベッラが玉の輿に乗るという主筋は、やや退屈な物語だ。

モダンでスタイリッシュな舞台につい幻惑されてしまうが、物語はかなり「泥臭い」ものだ。アラベッラと結婚する田舎の大地主マンドリカが、いかにも野卑な感じなのがよい。アラベッラとズデンカの姉妹は、ウィーン育ちの都会風お嬢様だが、一家には没落貴族にありがちな倦怠感が感じられて、賭けに溺れる父親のヴェルトナー伯爵や、ひたすら占いを信じる夫人など、貴族という存在そのものがどこか滑稽なものになっている。そういう雰囲気が、シュトラウスの甘美な音楽と実にうまく溶け合っている。アラベッラを歌ったミヒャエラ・カウネはとても背の高いドイツ人で、美貌も映える↓。指揮はウルフ・シルマー、オケは東フィル。