今日のうた4

charis2011-10-07

[今日のうた4]
(写真は上田三四二(1923〜89)、佐藤佐太郎と上田三四二は私の最も好きな歌人なので、これからたくさん挙げることになると思う。今回もそうだが、三四二には「光」を詠んだ秀歌が多い。)


・ 秋の野や花となる草ならぬ艸(くさ)
  (加賀千代女、千代女らしい優しさが感じられる句) 9.24


・ 秋の夜(よ)や紅茶をくゞる銀の匙
  (日野草城1927、「かきまわす」のではなく、紅茶を「くゞる」銀の匙) 9.25


・ 秋の航一大紺円盤(いちだいこんえんばん)の中
  (中村草田男1936、「秋の航路は、360度ぐるりと、ただ青い海」) 9.26


・ わたくしはどちらも好きよミカエルの右の翼と左の翼
 (紀野恵『フムフムランドの四季』1987、言葉の響きが美しい、作者は十代から歌集を出し天才少女と言われた人) 9.27


・ 海に湧く風みなわれを思へとぞ宇宙飛行士の夜毎のララバイ
  (井辻朱美『地球追放』1982、宇宙飛行士が地球の海を見ているのだろう。作者はファンタジー文学研究者、SF風の歌も多い) 9.28


・ 青山を横切る雲のいちしろく我れと笑まして人に知らゆな
 (大伴坂上郎女万葉集』巻4「青山にたなびく白雲みたいに、はっきりと分るように、にっこり私に微笑んでね、でも人には分らないようによ」) 9.29


・ 葦垣(あしかき)の中のにこ草にこよかに我れと笑まして人に知らゆな
  (よみ人しらず『万葉集』巻11、「高い葦垣に隠れて生えているにこ草みたいに、にっこり私に微笑んでね、でも人には分らないようによ」、昨日の大伴坂上郎女の歌の本歌、人には隠れた「にこ草」と「微笑」)  9.30


・ 吹きおこる秋風鶴をあゆましむ
  (石田波郷1939、風に押されて鶴がツツーと動く、受動と能動の微妙な交叉) 10.1


・ 行く我にとどまる汝(なれ)に秋二つ
 (正岡子規1895、「汝」は親友の漱石、惜別の句) 10.2


・ 一本の蝋(ろう)燃やしつつ妻も吾(あ)も暗き泉を聴くごとくゐる
 (宮柊二『小紺珠』1948、まだ停電の多かった時代) 10.3


・ ぞろぞろと鳥けだものをひきつれて秋晴の街にあそび行きたし
 (前川佐美雄『植物祭』1930、シュールな感じの面白さ) 10.4


・ 遠野ゆく雨夜の電車あらはなる灯(ひ)の全長のながきかがやき
 (上田三四二『湧井』1975、見えないけれど電車には人が乗っている、電車の「灯」は人間の「灯」) 10.5