P.ブルック『魔笛』

charis2012-03-23

[オペラ] ピーター・ブルック演出『魔笛』 さいたま芸術劇場

(写真下は、同舞台、昨春のロンドン・バービカン劇場公演より。上から、モノスタトスにつかまる直前のパミーナとパパゲーノ、パパパのシーン、そして竹林の中のパミーナ)



魔笛』を演劇中心に90分の舞台に再構成。竹の棒のみが並ぶシンプルで美しい舞台。音楽は舞台上の一台のグランドピアノが演奏する。2010年初演だから、ブルック84歳の演出だ。


魔笛』は「歌芝居Singspiel」というジャンルの作品なので、旋律の付かない普通の科白の部分が多い。通常のオペラ型式の上演では、この科白の部分はかなり短縮されて付け足しのように扱われるが、ブルックの本作品では逆に、役者が軽やかに動いて語る演劇的部分が中心で、それに音楽が加わるという感じだ。科白はフランス語で語られ、歌はドイツ語、両方に字幕が付く。


今回、字幕には一部しか訳されないので全部は分らないが、科白は原作とはかなり変えている。原作も科白は喜劇的な掛け合いが多いのだが、そこを一層強調して、完全な喜劇仕立てになっている。歌手もよく動くので、"軽やかな喜劇"に純化された『魔笛』というべきか。歌手が全体に若々しく、モノスタトスはイケメンの白人青年だ。当時の民衆が低料金で見られた楽しい「歌芝居」とは、こういうものかもしれない。ちなみに私が見た1階3列目のS席は8000円、オペラの値段ではない。


ただし、演劇中心なので、オペラ型式の舞台を見慣れた人にとっては、音楽がやや物足りない気がするだろう。原作ではパパゲーノは全部で3回グロッケンシュピールを鳴らすのだが、その3回とも一種の奇跡を呼び起こす。三童子の登場もそうだが、音楽が奇跡を起こすのが『魔笛』の一つの魅力だとすれば、そこを非常にあっさりと済ませてしまうブルック演出は、かなり違った印象になる。たとえば「パ、パ、パ」のところ。普通はパパゲーナが現れるまでの"待ち"の空白時間があって、もうそこで僕は胸が一杯になってしまうのだけれど、今回は最初からパパゲーナがいて「パパパ」と言いながら二人はもういちゃついている(上記写真)。等身大の人間たちの織り成す喜劇だから、"奇跡"はむしろそぐわないのだろう。


ブルックはプログラムノートにこう書いている。
>作品にアカデミックな手法を採用することはモーツアルトの芸術の本質に反します。・・・作品のビジュアルを重視しすぎて、ほかの全てを押しつぶしてしまわないように、グランド・オペラのような重厚さや厳粛さがなくとも、生き生きした作品になるように、遊び心を持ちながら、若々しい歌手たちが自然に動き回ることができる舞台にしました。


下記で、You Tubeの動画が見られる↓。
http://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=ZvaFc8I8wfc#!