ロッシーニ『セビリアの理髪師』

charis2012-12-09

[オペラ] ロッシーニセビリアの理髪師』 新国立劇場

(写真右は、左下からアルマヴィーヴァ伯爵役のL.ボテリョ、ロジーナ役のR.コンスタンティネスク、二人とも若く初々しい。下の写真は、バルトロ役のB.プラティコとロジーナ、本当に可愛らしいロジーナだった)


2005年初演の再演、私は初見だが、今回は1階1列23番という良い席だったので、歌手の演技や表情を細部まで見ることができた。原作は、ボーマルシェの演劇、フィガロ三部作の最初の作品で、『フィガロの結婚』はその後日談に当たる物語。ボーマルシェの戯曲では、『フィガロ』と同様『セビリアの理髪師』も、市民階級と貴族階級の対立も描かれてはいたのだが、ロッシーニのオペラとなると、内容は完全なドタバタ喜劇になっている。シェイクスピアのようなロマンティック喜劇ではなく、イタリアに伝統的だった笑劇そのものだ。演出のケップリンガーは、場面を1960年代のフランコ独裁下のセビリアに置き換えており、チャップリン映画のナチスに似た兵隊や肖像画などが登場し、さらに滑稽味が増している。バルトロの女中のベルタがすぐ隣で娼館を営んでいたり、フィガロは子供たちを手なずけて手下のように使っているなど、民衆のエネルギーを強調する演出だ。原作にはない演劇的要素も付加して、舞台が躍動的で生き生きとしている。


ロッシーニセビリアの理髪師』の魅力は、どこまでも軽快で疾走する快い音楽に、コミカルな科白が、舌を嚙みそうな早口で歌われる面白さにあるだろう。モーツァルトの美しいアリアとも違うし、ヴェルディのように朗々と歌うわけでもなく、即興の演技や科白もたくさん入るから、演劇的な要素の強いオペラだと言えるだろう。それがとても楽しい。アルマヴィーヴァ伯爵もロジーナも、ともに年若く、少年・少女のように初々しい。『フィガロの結婚』とは二人のキャラがまったく違うところがこの作品の魅力だと思う。特にロジーナは、ちょっと蓮っ葉なところもある、底抜けに明るい娘で、『フィガロ』の伯爵夫人とは別人と思えるほど、可愛い女の子になっている。


ジーナ役のコンスタンティネスクは、若いルーマニア人のメゾソプラノで、新国初登場の人。これまでに、ツェルリーナやケルビーノを歌っているというから、若さが弾けるような感じで、やはり伯爵夫人とはキャラが大きく違う。今回、バルトロを歌った中年のプラティコも素晴らしく、どーしょーもないオヤジの滑稽さが、演技の細部に至るまで溢れ出ていた。このロジーナとバルトロの組み合わせは大成功だったと思う。