ジョルダーノ『アンドレア・シェニエ』

charis2016-04-17

[オペラ] ジョルダーノ『アンドレア・シェニエ』 新国立劇場 2016.4.17


(写真右は、終幕の場面、白が美しい舞台、建物などの「斜め」の角度はギロチンの刃を象徴している、写真下は、詩人シェニエと伯爵令嬢マッダレーナ、そしてジャコバン派革命政府による裁判にかけられるシェニエ、民衆裁判の雰囲気だ)


新国では再演だが、私は初見。演出・美術・照明を兼ねるフィリップ・アルローはこれまで『アラベッラ』『ホフマン物語』を観たが、どれも舞台が美しかった。今回も、純白と三色旗の色だけで構成する舞台が、まぶしいほど明るく、美しい。実在の詩人、アンドレア・シェニエは、フランス革命で活躍した穏健な革命派の活動家だったが、ロベスピエールの革命政府が急進化して恐怖政治が行われる中、逮捕され、処刑された、32歳。テルミドールの反動で政府が倒れた1795年7月27日のわずか二日前だった。コワレー伯爵令嬢のマッダレーナも、名前は違うが実在の人物。二人の愛というのは、たぶん物語だろう。


プーランクカルメル会修道女の対話』もほぼ実話だが、実話を通してフランス革命が描かれるのは、ぜひとも記録に残したいと感じさせるような人間の生死とドラマが、そこにあるからだろう。本作の初演は1896年で、「ヴェリズモ(写実主義)」オペラの傑作の一つと言われるが、イタリアの国家統一運動とも関係するのかもしれない。本作では、密偵、逮捕、処刑、民衆裁判など、ジャコバン急進主義の恐怖政治の暗部が具体的に描かれており、アルロー演出は、舞台の幕を横切る大きな斜線や、建物の斜各など、ギロチンが象徴されるだけでなく、各幕切れはどれも、虐殺のストップモーションになっている。にもかかわらず、フランス革命そのものを弾劾するという王党派の反動的視点に立っているわけではない。純白と三色旗による舞台の統一は、非常に美しく、革命派の民衆はもちろん、打倒される貴族たちも明るく描かれている。


物語的には、コワレー伯爵家の幹部侍従で貴族支配に憎しみをつのらせていたジェラールが革命政府の幹部になるが、伯爵令嬢への「情欲的」愛を捨てきれないという話が面白い。ところが、そのように野蛮なジェラールも、伯爵令嬢の「貴方に体を許す代償に同志を救ってほしい」という崇高な情熱に接して覚醒し、人間として大きく成長する。彼はジャコバン派幹部でありながら、裁判のときには、民衆から「買収」と叩かれながら、シェニエを救おうとする。そして終幕では、監獄吏を買収して、処刑に向かうシェニエと伯爵令嬢の愛を遂げさせる。


シェニエを歌うテノールのカルロ・ヴェントレ、ジェラールを歌うバリトンのヴィットリオ・ヴィテッリ、伯爵令嬢を歌うソプラノのマリア・ホセ・シーリは、いずれも声量豊かな大音声が見事だった。ヴェントレもシーリもウルグァイ生まれだから、南米はオペラが息づいている地域であることが分かる。


下記に2分弱の舞台動画があります(ただし前回公演)。
http://www.nntt.jac.go.jp/opera/performance/150109_006153.html