MET、サーリアホ『遥かなる愛』

charis2017-01-24

[オペラ]  カイヤ・サーリアホ『遥なる愛』  1月24日 MOVIXさいたま


(写真右は、吟遊詩人ジョフレを歌うエリック・オーウェンズと、トリポリの女伯爵クレマンスを歌うスザンナ・フィリップス、オーウェンズは昨年のR.シュトラウスエレクトラ』でオレステスを歌った黒人歌手、「アンクル・トム」のような優しさが感じられてとてもいい、適役だ、写真下は舞台から)

フィンランドの作曲家カイヤ・サーリアホ(1952〜)が2000年に作曲したオペラ『遥かなる愛』が、METヴューイングで上映された。実際の上演は、メトロポリタン歌劇場、2016年12月10日、ロベール・ルパージュ演出。昨秋に観たクリス・デフォート『眠れる美女』(2009)がすごく良かったので、直近の現代オペラも少しずつ観たい。来年2月には新国が細川俊夫『松風』(2011)を。サーリアホは、以前、NHK・FMの現代音楽番組で聴いたが、オペラは初めて。約130年の歴史のあるメトロポリタン歌劇場で、女性作曲家の作品が上演されるのは1903年以来2度目というから、女性の作曲家は少ないわけだ。今回は、指揮もスザンナ・マルッキで女性。


全体として、ドビッシーが作った『トリスタンとイゾルデ』といった感じだ。吟遊詩人ジョフレは、架空の理想の女性を恋する詩を作っていたところ、巡礼者から、その女性はトリポリの女伯爵クレアンスだと言われ、海を渡ってクレアンスに会い行く(写真↓)。だが、着いたとき彼は病いに倒れ、彼女も相思相愛になるのだが、顔を寄せて唇を軽く触れ合っただけで、ジョフレは死ぬ。登場人物は、この二人と巡礼者の三人だけ。あと、海の精たちの合唱が加わる。クレアンスは女伯爵ということになっているが、どこか人魚のような感じがあり(↓)、その美しさによって死神を引き寄せる存在なのだろう。

演劇的な要素はなく、人物の動きもほとんどない。どこまでも物静かで、静謐な『トリスタンとイゾルデ』といった趣だ。だが、繊細で色彩感がある音の響きがとても美しい。LEDの光の点滅で海を表現しているが、光の点滅の線的な動きだけで、寄せる波など海の多様な表情が表現されるだけでなく、目の錯覚で、小舟も動いているように見える。簡素だけれどハイテクの使い方が素晴らしい。舞台には、「物」はほとんど存在せず、光と音だけがある。


下記に短い動画が。LED光の点滅の舞台が美しい。
http://met-live.blogspot.jp/2016/04/2016-17-03.html