国立西洋美術館『シャセリオー展』

charis2017-04-04

[美術館] 国立西洋美術館『シャセリオー展』 4月4日


[写真右は「カバリュス嬢の肖像」、下は「泉のほとりで眠るニンフ」と「オリーブ山の園で祈る天使」]


シャセリオー(1819〜56)の絵がこれだけ大量に日本に紹介されるのは初めてだという。描かれた人間の姿が美しいのに感嘆した。知的な顔立ちに特徴があり、知性は人間の顔を穏やかなものにして、そこに優美さが生まれるのだ。「泉のほとりで眠るニンフ」は数多くの画家によって描かれてきた「眠るヴィーナス」と同じ題材だが、神々しいまでの美しさで、私がこれまで見たことのある裸婦像では、最高のものに思われた。ある批評家は、「プラクシテレスの女神像のようだ」と評したが、たしかに「アルルのヴィーナス」に似ている。足から腰回り、胸にかけて、ふくよかでありながら硬質な感じがあり、ルノアールの肉感的な感じとは違って、その硬く白い輝きが美しさの源泉のように思われた。この女性は、シャセリオーの愛人だったアリス・オジーという女優で、「パリでもっとも美しい体」と讃えられたという。客はルイ・ナポレオンなどの有名人だけでなく、ユゴー父子が彼女をめぐって争ったというのが面白い。父ヴィクトル・ユゴーは『見聞録』に恋敵シャセリオーをけなす文章を書いており、アリス・オジーがそれに反論する手紙も残っている。子ユゴーのシャルルは「あなたの白き足に口づける」という詩を残した。写真下は、シャセリオーの描いたオジーのスケッチ画。

下の絵は「アポロンとダフネ」だが、膝から下が樹になっているのは普通として、多くの画家の絵はダフネが激しく叫んでいるの対して、シャセリオーのダフネは静かに瞑想するような表情である。端正で知的な顔立ちのダフネ。

また、『アメリカン・デモクラシー』の著者トクヴィルがシャセリオーの親友だったとは知らなかった。この絵はトクヴィルの邦訳などで見た記憶があるが、実物は輝くように美しい。絵の時点で(1850年)でトクヴィルは44歳のはずだが、30歳くらいの青年を思わせる。

下の絵は、今回の美術展には出ていなかったスケッチ「コンスタンティーヌムーア人女性」だが、彼の絵の優美な感じがよくでている。展覧会は5月28日までなのに、もう一度行ってみたい。