オペラ『ミカド』

charis2017-08-27

[オペラ] A.サリヴァン『ミカド(The Mikado)』 びわ湖ホール制作 新国立劇場 8月27日


(写真右は、中心キャラのひとつである三人娘、現代のキャピキャピした女子高校生という設定、写真下は、中央がミカド、とても楽しいキャラのミカドだ、終幕ではジョギングする短パン姿で軽やかに走る、その下は舞台、後が浅草の雷門になっている、日本に観光旅行中のガイジンたちという設定なのか、そして娘たち)



『ミカド』は初めて見たが、こんなに楽しいオペラとは知らなかった。ハチャメチャなナンセンス喜劇で、「コミック・オペラ」というジャンルらしいが、アリアはほとんどなく、踊りが多いミュージカルと言っていいだろう。音楽もクラシックというよりはポピュラー音楽を感じさせる。びわ湖ホール制作のものを、新国でも上演した。演出は中村敬一で、科白や歌詞を大胆に意訳した日本語にしたのがいい。原作は1885年当時のイギリスの支配階級や大臣、政治家を風刺しているので、日本のここ数か月の政治の科白がギャグでたくさん出てくる。「忖度」「公文書紛失」「防衛大臣辞任」「共謀罪」「ハゲーッ!」等々。「公道いちゃいちゃ罪」によって、路上でのキスは死刑というのは、ヴィクトリア朝の厳格な性道徳を風刺しているのだろう。そして、原作の恋愛願望の三人娘をキャピキャピした日本の女子高校生に置き換えたのが上手い。1885年のポスターでは「three little maids from school」となっている↓。

物語は、ミカド(帝)の息子であるナンキ・プーが、年増女性のカティーシャと結婚させられるのを嫌がり、家出。かっこいいミュージシャンとしてあちこち遍歴している(原作は吟遊詩人)。彼は、奇妙な政治家ココ(市長にして死刑執行大臣)が治める架空の町titipu(秩父?)にやってきて、そこで美しい娘ヤムヤムに出会って恋をする。ヤムヤムはココと婚約させられているが、嫌で仕方がない。ココは、威張りたがり屋で妙に恰好をつける滑稽な男だが、実は気が弱く、死刑執行をさぼっている。怒ったミカドが町に視察にやってくることになり、あわててナンキ・プーを死刑にしたことにして切り抜けようとしたが、ねつ造がバレてしまい、大混乱の末に、寛大なミカドの大御心によって、ナンキ・プーとヤムヤムは結ばれ、ココは年増女のカティーシャと結ばれ、すべてめでたしめでたしの終幕。役としては、愛嬌のあるダメ男であるココ(迎肇聡)と、最後はジョギング姿で現れる軽やかなミカド(松森治)がとてもよかった。最後に「オリエンタリズム」の問題を考えてみたい。(写真は2015年アメリカでの『ミカド』公演↓)

『ミカド』は1885年作で、当時のイギリスの上流階級、政治家、性道徳を面白おかしく風刺しているのだが、それをアジアの架空の国の物語に仮託して、風刺された側からの批判をかわしているのだと思う。登場人物の名前は、ミカドは明らかに日本だが、あとは、ナンキ・プー、ココ、カティーシャ、三人娘はヤムヤム、ピッティシング、ピープボーで、アジア系ではあるが、国籍をぼかすことが意図されている。最近を含めてアメリカで『ミカド』は何度も上演中止に追い込まれており、上演に対する批判も激しい。その理由は、いわゆる「イエロー・フェイス」(=白人がアジア人を演じる)の問題のようだ。白人の俳優・歌手が、アジア人風のかつらや衣装やメイクをすれば、それだけでいくぶん滑稽になるが、『ミカド』はキャラが全員滑稽な抱腹絶倒喜劇なので、アジア人がからかわれているという印象が生じるのだろう。アメリカでは、人種的マイノリティであるアジア人から抗議がなされ、その批判をかわすために、ほぼアジア人だけが演じる上演版もあるという。今回の上演のように、全員日本人が演じ、観るのも日本人の場合は、そういう問題は起きないわけだ。白人が演じる『ミカド』はyoutubeにたくさんあったが↓、たしかに滑稽さが増しているように思う。
https://www.youtube.com/watch?v=ahfRrWhI2d4
https://www.youtube.com/watch?v=88mO2r0Lp9E

追伸 びわ湖ホールでの、同じ舞台の動画がありました。
https://www.youtube.com/watch?v=2YgdjLLC_s4