J.ジャームッシュ『パターソン』

charis2017-12-30

[映画] ジム・ジャームッシュ『パターソン』 渋谷/アップリンク

(写真右は、ローラ[ゴルシフテ・ファラハニ]とパターソン[アダム・ドライバー]、二人は一緒に暮らしている恋人同士、パターソンは詩を読んでいる、美しい白黒のデザインはローラのもの、写真下は、三日間それぞれの朝、毎朝6時10分〜30分に目を覚ます規則正しい生活、左端の本は毎日違う詩人の詩集)

ストレンジャー・ザン・パラダイス』を思わせる、静かで美しい映像。人口15万弱のアメリカの地方都市に(ニュージャージー州、パターソン市)、バスの運転手であるパターソンと恋人ローラが、ブルドック犬のマーヴィンと、つつましく暮らしている。その二人の一週間を淡々と撮っただけ。事件もドラマも特にない。バスの故障、パターソンの行きつけのバーでの若い黒人の恋人たちの別れのトラブル、ローラが焼いたケーキが市場で売れたこと、犬のマーヴィンがパターソンが書いた詩のノートを破ってしまったこと。一週間の「出来事」といえばこれだけだ。パターソンは、毎朝ローラの作った弁当をもって、徒歩でバスの車庫へ通い、夕方、また歩いて帰宅する↓。耳に入ってくるバスの乗客たちの会話は、それぞれに生活の匂いがする。帰宅して、家の郵便受けから郵便を取り出し、少し傾いた郵便箱の角度を直す。そして二人で夕食↓。そして夜は、パターソンがマーヴィンを散歩につれてゆき、帰りにバーでビールを一杯だけ飲む。以上が淡々と毎日繰り返される。彼は詩が好きで、読むのはもちろん、自分でも書く。韻はほとんど踏んでいないが、シンプルで美しい詩だ。ローラはデザインの才能があるようで、自分の衣服やカーテンに描く白黒の模様がきれいだ。が、それで食べているわけではない。


二人は愛し合っているが、大げさな愛情表現はしない。パターソンは、押しつけがましいところのまったくない、ちょっと内気な青年。ローラはかわいい美人。そんな二人の淡々とした日常生活は、何ともいえない優しさがあり、それだけで詩情に満ちている。ただ生きているだけで、人生がそのまま芸術になっているかのようだ。この二人の若者は、それが存在するだけで、もう十分に美しい。そして、この映画には、ちょっとしたユーモアと笑いも欠けていない。郵便受けを毎日傾けるのは、犬のマーヴィンだったし、マーヴィンはとても多様な感情を見せるので、それだけでも楽しい。そして最後、黒い背広のくたびれたビジネスマン風の日本人男性が、公園で休んでいるパターソンの隣に座る↓。彼は、地元出身の詩人ウィリアム・C・ウィリアムズの詩集『パターソン』の日英対訳を取り出して、読み始める。彼は自分を詩人だと言い、パターソンに小さなノートをプレゼントする。マーヴィンに詩を書いたノートをずたずたにされて気落ちしていたパターソンは、元気を出して、再び詩を書き始める。ほとんどありそうもないシーンだが、この奇想天外なユーモアがとてもいい。この日本人は、まったく詩人らしからぬ風貌だし、パターソンもしがないバスの運転手だ。たった数分だけの出会い。だが、二人は詩を通じた友なのだ。ローラを演じたゴルシフテ・ファラハニはイラン出身の女優のようだが、白人女優にはない美しさがある↓。


動画がありました。
http://paterson-movie.com/