ヘンデル『アルチーナ』(二期会)

charis2018-05-19

[オペラ] ヘンデルアルチーナ』 二期会公演 めぐろパーシモンホール 5月19日


(写真右は、演出のエヴァ・ブッフマン、下はポスター、舞台写真は一番最後に↓)

ヘンデルにはオペラが40曲以上あるが、『アルチーナ』は彼の在世中から「ヘンデルの最高傑作」と言われていたという。私はもちろん初見だが、素晴らしい作品だった。構造が非常にはっきりしており、レチタティーヴォで物語が進み、アリアはひたすら感情を表現するので、同じ歌詞が繰り返し繰り返し歌われる。ヘンデルの美しくゆったりした音楽が心地よいので、前半はやや退屈だったが、魔女の女王アルチーナが魔法の力を失って破滅に向かい始める深みのあるアリアから、休憩をはさんで後半は、テンションがぐっと上がって、素晴らしい盛り上がりを見せる。キャラの作りが明確なのがいい。傲慢なアルチーナは黒ずくめのドレス、妹のモルガーナはピンクづくめの女の子女の子した服で、御菓子やバナナをつまみ食いしている。そしてアルチーナの魔法にかかって愛人にされるルッジェーロは、軍人の英雄のはずだが男性性をほとんど感じさせない優柔不断な男で、めかし込んだおしゃれな服装で、なるほどメゾソプラノが男装して歌うのは、必然性があるわけだ。ルッジェーロの婚約者ブラダマンテも弟に変装したので男装したメゾ。父を獣に変えられた少年も男装メゾだし、こうしたトランスジェンダーがとても楽しく、全体に、男性は二人で、あと全部女性なので、なんだか宝塚のようなオペラなのだ。(下は練習風景、ブッフマンと指揮の鈴木秀美[右端]が、左側の歌手たちに説明している。二期会の若手公演なので、歌手がみな若く、瑞々しい)

魔法で次々に男たちを魅惑して、愛人にしては、すぐに飽きて捨て、獣や石に変えてしまう魔女アルチーナ。しかし彼女は、本当に男を愛したことは一度もない。ところが、救出に来た婚約者ブラダマンテによってルッジェーロが魔法から醒め、アルチーナが彼に捨てられる段になって、彼女は初めて本当の愛に目覚める。初めての失恋! 「ああ、私の心よ、お前は騙されたのよ、星たちよ、神々よ、愛の神よ」と、切々と哀願するように歌う彼女のアリア。ここからが、舞台は劇的に盛り上がる。アルチーナは、島を逃げ出すルッジェーロを阻止しようと亡霊たちを呼び出すが、亡霊はだれも出てこないし、派遣した軍隊は全滅する。彼女は魔法の力をすべて失い、服も最後は質素な茶色の服に代わり、魔女はただの普通の女になってしまった。プライドの高い彼女だったが、今は跪いて泣きながら愛を乞うが、足蹴にされて破滅し、終幕。他の恋人たちがすべて愛を回復するのに対して、アルチーナだけは救済されない。彼女はどこか『魔笛』の夜の女王に似ている。


アルチーナ、モルガーナ、ルッジェーロの三人が、それぞれ愛の葛藤の苦しみを歌うアリアが本当に素晴らしい。ヘンデルは、それぞれの感情の違いに即したオケの音楽を付けている。古楽器のオケなので、音量は大きくないがとても美しい。アルチーノに対しては、Vlを中心にした弦楽器が、モルガーナに対しては、ほとんどチェロだけが(何という美しいチェロの音!)、そしてルッジェーロに対しては、金管も含めた全楽器が鳴るというように、三人の異なるアリアに対して、オケがまったく異なる音楽を伴奏する。このアリアの素晴らしさと、メルヘン風の分りやすい物語が、この作品の魅力なのだと思う。現代的でシンプル、スタイリッシュな舞台装置も美しい。
画像が見つかりました。写真は↓、ルッジェーロとアルチーナ、そして、お菓子をブラダマンテに食べさせるモルガーナ、そして舞台。