[演劇] シェイクスピア『お気に召すまま』 シアター・トラム 9月9日
(写真右は、ロザリンド[太田緑ロランス]、男装して叔父の宮廷を脱出する前の彼女は暗い、写真下は舞台、奥の方にレスリング試合に負けて退出するチャールズが見える)
「お気に召すまま」は、私のアマゾン・レヴューのハンドルネームにしているくらい好きな作品だが、河合祥一郎の新訳と演出も、はつらつとして、とても楽しい舞台だった。この演出の特徴は、オーランドが、ギャニメートは実はロザリンドの男装であることに気づいている、という解釈を取った点にある。彼は気付いたうえで、わざと騙されているふりをして、恋愛ゲームを楽しんでいるのだ。シーリア、ロザリンド、オーランドの三人とも、少年ギャニメートという「嘘」を一緒に楽しんでいるから、三人とも、とても生き生きとしている。彼らは、一時もじっとしてなくて、激しく動き回りながら、オーバーな身振り手振りで科白をしゃべる。観客に向かって目くばせすることも多い。つまり、科白を言ったあと、身振りで「・・・なーんちゃって」と付け加えているわけだ。『お気に召すまま』は、この場面でなぜこんなことを言うのだろうと、科白の真意がよく分からない箇所もあるのだが、オーランドは騙されている振りをしているのだとすれば、いくつかの疑問は氷解する。写真下↓はオーランド[玉置玲央]とギャニメート=ロザリンド。
ただ、ロザリンドはオーランドが自分の男装に気づいていないと思っているから、そのギャップが面白い。オーランドがギャニメートに対してロザリンド本人のように語りかけると、そういう場合は、ロザリンドが動揺して、急に女っぽく反応して地が出てしまう。「嘘」ゲームに関しては、彼女は勝っているつもりで実は負けているのだ。だからこそ、終幕のギャニメートの科白、「僕は魔法使いに知り合いがいるから、明日の結婚式にはロザリンド本人を連れてきてあげるよ」という「大嘘」が、こんなにも楽しく聞こえるのだ。シーリアとロザリンドがほとんど同性愛的に愛し合っていて、抱き合ったり、キスをしたりするのがとてもいい。ロザリンドもシーリアも、異性愛と同性愛の二重の恋愛ゲームを楽しんでいるわけで、だからこそ彼女たちは、こんなに伸び伸びとして、はつらつとしているのだろう。『お気に召すまま』は、ただ結婚を寿ぐ祝祭性というだけでなく、友愛、同性愛も含む広義の愛を寿いでいるのだ。夢が現実であり現実が夢であるアーデンの森の「お祭り」は本当に楽しい。