ケストナー原作、井上ひさし『どうぶつ会議』

[演劇] ケストナー原作、井上ひさし『どうぶつ会議』  新国立劇場・小  1月29日

  (写真下は、ライオンの王様のアロイス[=元宝塚女優の大空ゆうひ]、その下はその弟のライオン[=栗原類]、日本のサーカス団の仲間の動物たち、すごい美女とイケメンをライオンの兄弟にしたのがいい)

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エーリヒ・ケストナーが1949年に書いた児童文学をもとに、井上ひさしが演劇化し、1972年に劇団四季で上演された。それを今回、田中麻衣子演出の新しいバージョンで、こまつ座が初演した。とてもよく出来た楽しい劇で、ぜひ子供たちに見せたいと思う。ケストナーの原作は、第二次大戦への反省にもとづき、動物たちが、「国という単位を廃止しよう、すべての軍隊を廃棄しよう」という国際条約を呼びかけ、子供たちがそれに賛同し、最後はしぶしぶ大人たちの国際会議もそれを承認するという物語。まさに、日本国憲法の思想そのものだ。井上ひさしの演劇版は、72年なのでそれに公害問題が加わっているのがユニーク。動物たちが、自分たちの要求を認めさせるために、人間の将軍や政治家たちと戦うのは原作と同じだが、原作ではネズミが人間の会議の資料を食べてしまい、蛾の大群が会議場の将軍の服を食べて裸にしてしまう。井上版でも、虫の大群が将軍を襲い、公害工場の煙突を襲撃する。だが、原作も井上版も、人間の知恵が勝って動物の襲撃作戦は敗北する。そのとき将軍や政治家たちは、「我々には文書と兵器があるが、動物たちには無い」と誇らしげに言う。これは鋭い発言で、情報伝達の媒体と兵器という意味だ。これらは人間の知恵が作り出したものだが、これが人間を滅ぼすことになるかもしれない。だが、この襲撃に敗れた後、今度は、世界中の子供たちが動物に味方して家出するので、最後は動物たちが勝利する。原作も井上版も、全編がユーモアに溢れているのがよい。↓

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 井上版でとてものよいのは、原作にはない日本のサーカス団の動物たちを設定したことだ。私も以前、たまたま近所に来た地方サーカスの動物たちを見たことがあるが、サーカス団の動物たちは、ふだんはとても小さい檻に入れられてかわいそうだった。そして、ライオンの王様の美女アロイスは杖をついている障害者なのだ。子どもも障害者も弱者で、戦争の一番の被害者でもある。どうぶつ会議で採択される「どうぶつ憲章」の歌もいい。ボウフラやミミズなど、普通は人間に嫌われる「害虫」なども、堂々と生存の権利を主張している。動物多様性の重要性を人間たちが認識したのは最近だ。井上版の「どうぶつ会議」は、日本国憲法エコロジーの思想を正面から打ち出した、思想劇であり政治劇といえる。そして子供たちにもよく分かる。写真下は、動物たちを虐待するサーカス団長↓。

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