チェルフィッチュ 『スーパープレミアムソフトWバニラリッチソリッド』

[演劇] チェルフィッチュ『スーパープレミアムソフトWバニラリッチソリッド』 シアター・トラム 2月2日

 (写真下は舞台、コンビニに働くバイト店員たち、店長、お客などが登場人物、ふだんのチェルフィッチュのように小刻みに体を震わせる脱力系の身体運動だけでなく、ダンス的な速い運動も加わる)

f:id:charis:20190124210328j:plain

f:id:charis:20190125150948j:plain

f:id:charis:20190203082720j:plain

チェルフィッチュは、これまで数回しか見ていないが、今回が一番面白かった。2014年上演の『スーパープレミアムソフトWバニラリッチ』に「ソリッド」を加えたのが、今回の再演。私は初見だが、演劇にこんなことができるのかと感嘆した。こういうことを考えつく岡田利規は天才だと思う。(キース・ジャレットの弾くピアノ版)バッハ『平均律クラヴィーア曲集』に合せて、身体が「踊る」のは何と素晴らしいのだろう!しかも開幕から終幕まで、ワーグナーの無限旋律のように切れ目なくぶっ続けで!  音楽と、身体運動と、科白の言葉とが、三つ重なると、そこには無限に多様な感情、意思、思いなどが表現されて立ち現れる。同じ曲が何度か繰り返し使われるが、体の動きと科白が違えば、同じ音楽でも違った感情や思いを表現できる。バッハの音楽がこのように使われたことが、かつて一度でもあっただろうか!?

f:id:charis:20190125145522j:plain

ダンス的パフォーマンスだけでなく、演劇としてちゃんと主題もあり、それが見事に表現されている。それは、芥川賞受賞の村田沙耶香コンビニ人間』(2016)とも共通していて、コンビニという場所は、現代社会の人間関係のある側面を先鋭に表しており、そこでのディスコミュニケーションと人間関係の奇妙なねじれが主題。『コンビニ人間』もそうだったが、コンビニはちょっと変わった変な客も来るのだ。「スーパー」「プレミアム」「リッチ」などという大げさな修飾が付いているがフツーのアイスクリーム「スーパープレミアムソフトWバニラリッチ」を毎日必ず買いに来る奇妙な女の子がいる。このアイスが新製品に変更になったのだが、ぜんぜん味が違うものになったと、彼女は激しく抗議する。「いやいや、どうもすみません」とバイト店員の女の子が必死で慰める。そうかと思えば、何も買わないでひやかしにだけやってくる長身の美青年もいる。彼はバイト店員に「最低の時給で使われている君たちは、搾取されているのに、分らないのかな」とか言って、とてもナルシスティックなダンスを踊る。彼はきっとお金持ちのお坊ちゃまなのだろう。しかしそういう彼は、トイレを借りにコンビニに来たとき、店員から意地悪されて貸してもらえない。チェルフィッチュ特有の小刻みな身体運動で、お尻をプリプリ激しく震わせているうちに(=もの凄くリアル!)ウンコをもらしてしまう(写真下の左の白い服の青年↓)。そうかと思えば、上部から派遣されてくるスーパーバイザーは、店の売り上げが低迷しているので、本部から自分の責任にされるとして、店長を激しく詰問する(写真下の右の黒い服)。コンビニという存在をとてもよく表しているではないか。何と面白い演劇だろう。演劇における笑いの批評性が全開の作品だ。

f:id:charis:20190125150517j:plain

f:id:charis:20190125144323j:plain

1分間ですが、初演の映像↓。バッハ(チェンバロ)と身体運動のこの「取り合せ」の妙!

https://www.youtube.com/watch?v=yHu7NJxGzo8