METライブ ガーシュウィン《ポーギーとベス》

[オペラ] ガーシュウィン《ポーギーとベス》 METライブ  Movixさいたま 4月3日

(写真↓は舞台、多人数の踊りが多く、ミュージカルのよう、1935年ニューヨークでの事実上の初演はブロードウェイだった。メトでは、出演者のほぼ全員が黒人歌手ゆえ上演しにくかったらしい)

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有名な作品だが、私は初見。メトでも30年ぶりというから、上演は珍しいのかもしれない。作曲者自身が「黒人歌手以外に歌わせてはならない」と言ったそうで、他国での上演はどうなのだろう(日本初演は1991年らしい)。ポーギーとベスとの二重唱など、しみじみと美しく、このような場面と、全員が体全体で喜びを表現する激しい踊りとが、うまく交互するのが、この作品を成功させている。人間は、喜びの感情を表現するとき、これほどまでに激しく踊り狂うのだ。貧しい黒人労働者たちが互いに助け合い(特に女たち)、肩を寄せ合って生きているコミュニティである「キャットフィッシュ・ロウ」がとてもいい。横暴な白人の警部が一人登場するが、社会の底辺で抑圧されて生きている黒人たちを前景化した点で、19世紀末ヨーロッパのヴェリズモ・オペラとも共通点がある。(写真↓は、酒を飲み、賭けに熱中するキャットフィッシュ・ロウの男たち)

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オペラとしては素晴らしい作品なのだが、私は、終幕、非常に後味が悪く感じた。というのは、アリストテレスが『詩学』で批判したように、最後に悪人が勝って高笑いするからである。物語は、足の悪い乞食同様のポーギーと、官能的な美女ベスとの純愛のはずなのだが、最後に、麻薬密売人のスポーティング・ライフがベスに麻薬を与え、ベスはライフに従ってニューヨークに行ってしまう。そのことを知ったポーギーは、単身でニューヨークに行こうとするのだが、車椅子の彼が行けるはずもなく、途中で野垂れ死にするだろうと嫌な予感がされるところで、終幕。ベスは、前の情夫だったクラウンにも体を許してしまうし、私は、最後の最後には、ベスがポーギーのところへ戻ってきてハッピーエンドで終わるのだろうと思いながら見ていたので、何とも後味が悪い。(写真↓は、ベスを誘惑するライフ)

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歌手については、ポーギーもベスも本当に素晴らしい。特にポーギーを歌ったエリック・オーウェンズは、METのシュトラウスエレクトラ』でオレステスを歌ったときは、?と思ったのだが、ポーギー役としては彼以上の適役はいないだろう。(写真↓は、ポーギーとベス、ブルーフレームの石油ストーブが懐かしい) 

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短いですが、映像が。

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