今日の絵(12) 7月前半

 [今日の絵] 7月前半

 1 Velazquez : The Needlewoman, 1635~43

ベラスケスの「編み物をする女」は未完成で、頭や顔は完成しているが、手や指は描きかけだ、しかし、前方に傾いている体、さらにうつむいている顔は、しっかりと指先を見ている、指先を見るぴーんと張りつめた視線が空間を引き締め、編み物に没頭している雰囲気がよく伝わる

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2 Vermeer : レースを編む女、1670

この絵は、フェルメールの絵としてはもっとも小さく、24.5×21㎝、指先でとても繊細な作業をしていることが分かる、フェルメールに限らずどの画家が描く「編み物をする女」も、自分の指先を見詰めており、指先とそれを一心に見詰める張りつめた視線が絵の核心である、それに対して左側の流れ出るような糸は張りつめていない

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3 Anker : 編み物をする若い娘, 1884

アンカー1831~1910はスイスの画家、この絵は自分の娘と思われるが、小学生くらいだろうか、真横から見上げるような視点なので、指先を見ている眼そのものが描かれている、緊張した視線だが、左腕に掛けた小さな籠が可愛らしい、梨も置いてあって、編み物を楽しんいることが分る

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4 Benson : The Sunny Window, 1919

タイトルは「夏の窓辺」だが、ベンソン1962~1951の娘エレノア1890~?と思われる女性が編み物をしている、逆光の構図が素晴らしく、衣服の模様と編んでいる布地の薄く透ける感じが、彼女を優しい光で包んでいる、影になっているにもかかわらず、しっかり開けた眼が指先を凝視している

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8 Artemisia Gentileschi : Saint Cecilia as a Lute Player,1620

楽器を持つ姿は、画家が好んで描く主題、弾いている場合と、ただ持っている場合と二種類あり、これは前者、最初の本格的女性画家といわれるジェンティレスキの絵、カトリックにおける音楽家守護聖人である聖セシリアリュートを弾いている、その視線からして彼女は天国に向かって弾いている

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9 Hals : Boy with a Lute, 1625

デカルト肖像画で名高いフランス・ハルスの描く人物は、表情が生き生きしており、特に笑顔がとてもいい、この絵も、少年のちょっといたずらっぽい感じが分る

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10 Manet : 笛を吹く少年、1866

この絵はマネの息子といわれているレオンの可能性が高い、事実上背景がないことで名高い絵だが、笛は彼の身体の一部になっている、ピアノは別として多くの楽器は弾かれるとき身体の一部になり、楽器が音を出すというより、楽器と一体になった身体が音を出すという感じになる、この絵では、笛を吹くことによって身体全体にすばらしいバランスと調和が実現している

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11 Boldini : ギター弾き、1873

ボルディー二の描く人物画は、身体が鮮やかな力動感をもっている、この「ギター弾き」も、足をわずかに突っ張っているギター弾きの女の横顔と、膝を抱えて聴いている闘牛士の男の、体勢と表情がいい、二人は恋人か、身体を含めた部屋のすべての情景が視覚的な音楽になる

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12 Perry : A Young Violoncellist, 1892

Lilla Cabot Perry (1848–1933)には、Margaret (1876)、Edith (1880)、Alice (1884)の三人の娘があり、みな楽器を弾く、これは次女のEdithだろう、ペリーの描く娘たちは、母親だからこそ分る表情の細部が描写されており、この絵は、モデルにされてやや緊張している

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13 Nikolay Bogdanov-Belsky : Young Musician, 1920

ボクダノフ-ベルスキー(1868~1945)はロシアの画家、農村の子どもたちを生き生きと描き、教室の光景など優れた絵が多い、これは楽器を弾いている少年、素朴な楽器のようだがタイトルは「若い音楽家」、友達に聴かせているのだろう、眉間に力が入って緊張している

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14 Danielson-Gambogi : Self-portrait, 1899

エリン・ダニエルソン=ガンボージ(1861~1919)はフィンランドの女性画家、家族の絵をたくさん描いた、これは38歳のときの自画像、13歳年下のイタリア人画家ラファエル・ガンボージとの結婚1年後だが、じきに彼は彼女の友人ドーラ・ヴァフルルースに浮気して結婚は破綻

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15 Mattise : Woman with a hat, 1905

マティス1869~1954が2か月の交際で結婚した妻アメリを描いた。彼女は二歳年下。荒々しいタッチと強烈な色彩に、彼の画法は「野獣のようだ」と非難されたが、高く評価する人々もいて、この絵が「野獣派」のデビュー作になった、衣服の模様と帽子が力強く呼応する

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16 Macke : 妻の肖像、1909

アウグスト・マッケ1887~1914はカンディンスキーらの前衛美術運動「青騎士」グループで活動、27歳で第一次大戦で戦死、表現主義とも抽象絵画とも違う独自の画風で知られる、この絵はパリに学んで直後に結婚した妻エリーザベト、二人とも20代の初期で若く、姿は端正で瑞々しい

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17 Werefkin : Self-portrait 1910

マリアンネ・フォン・ヴェレフキン(1860~1938)はロシアの画家、1909年にはカンディンスキーらとともに「ミュンヘン新芸術家協会」を創立、マチスと会ったのは1911年だが、この50歳の自画像はマチスの影響を感じさせる

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