[演劇] シェイクスピア『十二夜』

[演劇] NTライブ『十二夜』 TOHOシネマズ日本橋  10月11日

(写真↓は舞台、現代的でスタイリッシュ、全体が回り舞台でスピーディに回る、下の右端は執事が女性に変えられたマルヴォーリア)

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2017年4月6日の、ナショナルシアター公演、サイモン・ゴドウィン演出。原作の執事マルヴォーリオをレズビアンの女性マルヴォーリアに変えたのが斬新。オリヴィア邸の召使いフェビアンも女のフェビアに変え、道化フェステも女性がやる。もともとトランスジェンダーの混乱を楽しむ喜劇なのだが、それをさらに進展させて、ジェンダーそのものを迷路のように混線させてみたのが、この上演。オーシーノ侯爵と男装したヴァイオラとの間も同性愛っぽくした。女性執事マルヴォーリを演じるタムシン・グレイグがすばらしく、かつてマルヴォーリを演じたナイジェル・ホーソン以来の名演かもしれない。(写真↓は、オリヴィアから指輪を押し付けられて困惑するマルヴォーリア)

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しかし、原作の似非ピューリタンで権力主義者の執事マルヴォーリオを、レズビアンの女性執事マルヴォーリアに変えたことによって、笑劇的な要素がだいぶ変わってしまった。オリヴィア姫に恋されていると錯覚して舞い上がってしまうのが、権力主義者で高齢オヤジのマルヴォーリオだからこそ可笑しいので、それが、もともとレズヴィアンで、それを今まで必死に隠してきた真面目な中年女性マルヴォーリアだとすると、仕草はともかく、核にある同性愛を笑うことはできない。最後の地下室閉じ込めも、原作以上にマルヴォーリアは徹底的にいじめられるので、かわいそうになってしまう。また、エレファント亭がゲイ・バーになっていたのは、ジェンダー的にどういう含意があるのかは、よく分からなかった。オリヴィア邸では、マライアとフェビアだけでなく、たくさんの女の召使いたちが生き生きと働いているが、こちらは、兄を失ったオリヴィアその人が、男性一般を嫌いになったみたいで、面白い設定だ。 (写真下↓、左端のオリヴィア以外はみな女)

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十二夜』の魅力は、兄セバスチャンとオーシーノ侯爵に対するヴァイオラの純愛のとても切なく美しい主筋と、恋に舞い上がってしまうマルヴォーリオとオリヴィアとオーシーノたちの滑稽な笑劇という副筋とが、絡み合うように交錯しつつ、捩じれてはまた回復する、そのシーソーゲームの美しさにある。だから、マルヴォーリオがレズビアン女性のマルヴォーリアになってしまうことは、そこにも切なさと愛おしさが生まれてしまう。いや、それは間違いというわけではないし、そこまで考えてのゴドヴィン演出かもしれない。ヴァイオラ演じた黒人女優のタマラ・ローレンスは、笑顔がとても可愛く、ボーイッシュな少女の魅力に溢れていた。オリヴィア姫は主筋と副筋の交差点に立つ、切なくかつ滑稽というキャラなので、演じたフィービー・フォックスはとてもよかったと思う。(写真下は、ヴァイオラとオーシーノ、そしてヴァイオラとオリヴィア、オリヴィアに胸を触られたので女であることを必死に隠そうとしている)

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56秒の動画、とても楽しい場面

https://www.youtube.com/watch?v=SIOJBmpRtYo

1分半の動画、ヴァイオラの独白

https://www.youtube.com/watch?v=F2aMKzV6MGo