[演劇] 倉持裕『イロアセル』

[演劇] 倉持裕『イロアセル』 新国小劇場 11月20日

(写真は舞台、誰もが、しゃべった言葉や書いた文字は色になって雲のように広がり、同時にスマホのような「ファムスター」にすべて表示される、人物が手に持って見ているのがそれ)

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非常にユニークな主題をもつ作品だが、物語の展開がやや難しい。緩急に乏しく、すべての場面が「動」と「急」ばかりの2時間10分休憩なしで続くので、やや疲れる。ある離れ島では、しゃべった言葉がすべて色の雲になり全体に伝わるので、人の悪口は言えないし、発言は建前ばかりで本音は言えない。しかしその島はそれでうまくいっているようにみえるが、本土から一人の囚人と看守を伴う留置場が移転してきたことによって、状況は一変する。その留置場だけは↓、しゃべった言葉が色にならないのだ。黒と白しか存在しない。

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島民たちはこぞって留置場に「面会」と称して訪れ、そこでは安心して本音をたくさんしゃべる。その発言を囚人が文字に起こして島の新聞に投稿するので、皆の本音が島民に筒抜けになってしまい、島は大混乱に陥る。最後は、島の住人が囚人を襲い、指を切り落とすことによって囚人も傷つく。そうこうするうちに、島民の発言ももはや色が付かなくなってしまう。多くの島民は、言葉の機能が一変したことによって困惑し、島を去る、という物語。(写真↓は、島の町長の女性と町会議員、指さしている機械は「ファムスター」の本局)

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2011年に初演の作品で、ツイッターなどSNSによって、発言が瞬時に広まることの危険性が主題なのだ。たしかに、本来「つぶやき」というのは、発言者のすぐ近くにいる人にしか届かないものだが、それがツイッターとなると何万人もに一気に聞こえてしまう。つまり、人類がこれまで経験したことのない仕方で、人と人とが繋がってしまう。とても重大な事態だと思う。本作は、離れ島ではそういう異常事態が平常のデフォルトだったのに、それがなくなる転換が起きるという、逆方向からの物語になっている。物語を作るのが非常に難しいはずだ。この舞台は、「フルオーディション」でキャスティングしたせいか、俳優の誰もが個性的で、非常にうまい。特に、看守(伊藤正之)と囚人(箱田暁史)は圧巻だった。

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よい動画がありました。

https://twitter.com/nntt_engeki/status/1461863733681135624