[今日の絵] 3月後半

[今日の絵] 3月後半

16 Turner : St. Erasmus in Bishop Islips Chapel, Westminster Abbey 1796

「道」もまた室内に劣らず人が存在する場所である。都市の道を描いた絵を少し見ていきたい。道にいる人はただ歩いているのではなく、それ以上のことをしている、ターナー(1775~1851)のこの絵の人は、ウェストミンスター寺院の中のある箇所を眺めている

 

17 John Singer Sargent : ヴェネチアの通り 1882

ジョン・シンガー・サージェント(1856~1925)はアメリカ人だが、ロンドンやパリで活動、上流階級の女性画が多いが、この絵の女性はそうではない、生活の匂いのするヴェネチアの裏通り、女性は何か考えているようだ、右側の男は「おっ、いい女だ」と鋭い視線を投げかけている

 

18 Tom Roberts : Going home 1889

トム・ロバーツ(1856 - 1931)はオーストラリアの画家、メルボルンや周辺の絵を多く描いた、写実的な画風だが、これは印象派の影響を受けている作品、「帰宅」というタイトル、おそらく恋人か夫婦だろう、後姿の向こうに、雲間の夕陽と街の灯りが逆光となっているのがいい

 

19 Serebriakova : Collioure. A street with arch 1930

コリウールは地中海に面したフランスの町、この絵でも、いかにも南国の町だ、タイトルは「アーチのかかった通り」だが、生活の匂いのあふれる細い路地と、家と家を繋ぐ二階の廊下を支える小さなアーチ、路地にいるのも、買い物と子守の女性

 

20 Remedios Varo : Farewell 1958

道は人と人とが出会う場所だが、別れる場所でもある、この絵では、「さよなら」と言って別方向に去る恋人たちが影だけキスをしている、猫もそれを見ている。レメディオス・バロ(1908~63)はスペイン生れの女性画家、画風はシュールレアリスムナチスを避けメキシコに亡命

 

21 Antoine Blanchard : Champs Elysees

アントニー・ブランシャール(1910~88)はフランスの画家、パリの大通りの絵をたくさん描いた、この絵は1950年代に描かれたが、実景そのものではなく、19世紀の絵葉書も参照したというから、これは十九世紀のシャンゼリゼの光景ということになる、色彩が人に集中しているのがいい

 

22 Marianne von Werefkin : Ave Maria1927

マリアンネ・フォン・ヴェレフキン(1860~1938)はロシア出身の表現主義の画家、カンディンスキーなどと活動、絵はどこかシュールで強烈な色彩感がある、この絵も、右側は神父らしく、左側は女性のみだが祈ってはいない、家々はゆがみ、何ともいえない不穏と不安が感じられる

 

23 Utrillo : Restaurant Bibet à Saint Bernard 1925

サン=ベルナールはフランス東部の町、「Bibet」という名のレストランなのか、看板には「Restaurant」とある、タバコ屋も兼ねているようだ、店に入るわけではなさそうな人々が道にいるが、彼らはなんだか楽しそうだ、左の方を見ているようだが、何を見ているのか

 

24 Jean-Étienne Liotard : トルコ風の服を着たフランス人マリア・アデレード 1753

今日からは「読む」がテーマ、大きなソファーにゆったり寄りかかって読みふけるのは上流階級の女性か、帽子も含めてトルコ風の服はとても美しい、普段着なのか、ジャン=エティエンヌ・リオタール(1702-1789)はスイスの画家、コンスタンチノーブルに5年滞在した

 

25 Manet : Woman Reading, 1880

19世紀の後半、パリには芸術家や作家が集まるカフェがあり、この絵は、ピガール通りにあるカフェ・ヌーヴェルアテネらしい、マネと彼のサークルの為にテーブルを二つ確保、左にビールのジョッキがあり、後方に赤い花も見える、女性が寛いでいる雰囲気がいい、画集を見ているのか

 

26 Anders Zorn : Emma Zorn, reading, 1887

エマはアンデシュ・ソーン(1860~1920)の妻、熱心に新聞を読みふけっている、何気ない日常の絵だが、新聞紙の白い大きな広がり、服の縦じま、薄く描いた背景、右上の箱の模様やガラス容器など、全体に薄明かりの室内だが、色彩のバランスがとても美しい

 

27 Ilya Repin : Leo Tolstoy in the forest, 1891

イリヤ・レーピン(1844~1930)はロシアの画家で、大衆や労働者の絵をたくさん描いたが、芸術家の絵も多く、たとえばトルストイを何枚も描いている、これは「森で休息するトルストイ」、しかしトルストイはぼんやりしているわけではなく、真剣な表情で本を凝視している

 

28 Serebriakova : Family Portrait, 1910

セレブリャコワはロシアの画家、この絵が描かれた1910年は、彼女の結婚後5年目なので、この家族は、彼女の夫や子供たちではないだろう、でも父親が教育熱心で家族全員に本を読みきかせるというのは、当時の知的な中産階級にはよくある光景だったのだろう

 

29 Matisse : Reading Woman with Parasol 1921

マティスの絵の特徴は、なによりも、背景を含めた造形の建築的均衡の見事さにある、この絵も、読書する女性の姿勢、視線の向き、ネックレス、両手、書籍、帽子とパラソル、横縞の机、背景の模様、そして色彩・・・、すべてが建築的に均衡している

 

30 Maurice Mendjisky : Madame Bourgeois reading 1921

モーリス・メジンスキー(1890~1951)はポーランド出身のフランスの画家、ルノワールモディリアーニピカソなどと交友、女性画をたくさん描いた、この絵は「読書するブルジョア・マダム」、たしかに労働者階級の女性は裸で読書するほど余裕ある住居がないだろう

 

31 Edward Hopper : Interior (Model reading), 1925

エドワード・ホッパー(1882~1951)はアメリカの画家、アメリカ人の、いかにもアメリカ人らしい生活をたくさん描いた、「室内interior」というタイトルの絵はいくつもあり、この絵は、身繕い中の女性が、つい下着のままで本を読み始めてしまい、熱心に読み耽っている