[今日の絵] 9月前半

[今日の絵] 9月前半

1ヒエロニムス・ボス : 卵のコンサート1475-1480

今日からは「音楽」、絵は音を出さないが、音楽は絵に描かれる、音楽は最初は神話や宗教と結びついていたのか、この絵も悪魔など聖書の寓話性を感じさせる、ボス1450頃~1516は初期フランドルの画家、幻想的で怪奇な画風はブリューゲル等に影響を与えた

 

2 Orazio Gentileschi : ヴァイオリンを弾く若い女性(聖セシリア)1624

ラツィオ・ジェンティレスキ1563~1639はイタリアの画家で、アルテミジア・ジェンティレスキの父、弾いているのは世俗のミュージシャンではなく聖人、聖セシリアは2世紀頃のカトリックの聖人で、音楽家と盲人の守護聖人といわれる、彼女は天を仰いでいる、天上のミューズたちに聴かせているのか

 

3 Rembrandt : 音楽の寓意1626

楽譜を見て指揮をしているのは女神っぽく見える、兜からするとアテナだろうか、足元に楽器や楽譜が散乱しているのが面白い、彼女はこの世に降りてきて音楽を教えているのか、そして壁の絵は宗教画のよう

 

4 Lombard Schoolの画家 17Ce

ハープを持っているのは美しい肉体の天使、楽譜をじっと眺めて思案しているのが面白い、「難しそうな曲だな」とか思っているのだろうか、イタリアのロンバルド派の画家が描いたもの

 

5 Vermeer : ヴァージナルの前に立つ女 1672

ヴァージナルvirginalsはピアノに似た16、7世紀の楽器、裕福な家の女性が弾いている、壁の絵の一つはギリシア神話のエロスだから、ここでも音楽は神話と繋がっている、音楽は性愛と象徴的関係があるのか、昨日の絵のハープを持つ天使の美しい肉体もそうだったのか

 

6 Manet : 老音楽師 1862

さすがに19世紀、音楽は脱神話化されて世俗のものに、この絵は老音楽師を囲む集団が奇妙、右隣の男はマネ自身の落選した「アブサンを飲む男」1859の模写、左のジプシーの女はシュレシンジャー「さらわれた子供」1861から、白服の少年はワトー「ジル」からパクッたと言われる

 

7 Vasily Perov : Solitary Guitarist 1865

ワシリー・ペロフ1834~82はロシアの画家、民衆の絵をたくさん描いた、この「孤独なギター弾き」も、ほとんど仕事の口がない貧乏ミュージシャンに見える、練習で弾いているのか、溌剌とした元気さがなく、疲れて、表情も暗い

 

8 Cezanne : タンホイザー序曲 1869

セザンヌワーグナーが大好きだった、この絵は、ピアノ、人物、床、椅子や壁の模様など、色彩が黒・白・黒・白・・と並び、全体に楽譜のような音楽的なリズムが感じられる、この頃すでにオペラ以外にも「タンホイザー序曲」ピアノ編曲版の楽譜が普通に売られていたのか

 

9 Degas : オペラ座のオーケストラ 1870

中央にいるのはオペラ座バスーン奏者デジレ・ディオー、ただしオケの団員の並び方は実際と違い、ドガの知人たちを前景に集めたものになっている、みな真剣な表情だ、上部にバレリーナが見えており、ドガが踊り子たちを描き始めるのはこの絵以降

 

10 Renoir : ピアノの前のマンデスの娘たち1888

カチュール・マンデス1841~1909は、ユダヤ系フランス人で高踏派詩人、ルノワールとともにワーグネリアンとして知られている、左側の娘二人は彼の妻との子ではなく愛人との子らしい、右側はたぶんルノワールの娘だがこちらも非嫡出子、それはともかく彼の描く子どもは本当にいい

 

11 Lilla Cabot Perry:The Trio, Tokyo, Japan, 1898-1901

ペリーは夫が慶大教授として日本に滞在した時に家族ぐるみ来日、日本の家屋の室内で演奏する彼女の三人の娘たち、三人のドレスが美しく、その曲線性は、畳や床の間など和風の室内調度の直線性とよく調和している

 

12 Sam Klada :猫たちにセレナーデを弾くモーリス・ラヴェル

サム・クラダはブラジルのサンパウロで活動する現代のイラストレイター、猫の絵が好きらしい、この絵もたぶん最近のもの、ラヴェルが猫たちを前にセレナーデを弾いている写真が残っているのだろう、猫たちが音楽を聴いているというよりは、こちらをじっと見詰める目がいい

 

13 Serebriakova : Girls at the piano 1922

セレブリャコワの場合、「少女たち」と言っても、モデルはほとんど自分の娘、浅く腰かけたり、ピアノに凭れたり、姿勢とお行儀が少し悪いが、実際にこうだったのだろう、目が澄んで表情が生き生きしているのは、彼女の他の絵と同じ

 

14 Matisse : The Piano Lesson 1923

マティスの絵はどれも、色彩が美しいだけでなく、空間全体の作り出す均衡が素晴らしい、この絵も、右側は上下のベクトルが感じられるが、左側は空間がゆったりと広がり、安定した「重さ」があって、音が左側から右側へ見えない縦波となって広がっているかのよう

 

15 Yannis Tsarouchis : Half Naked Pianist 1971

ヤニス・ツァロウチス1910~89は現代ギリシアの画家で、船員など男性の絵が多い、この絵は、半裸で描かれているので、ピアノを弾くときの腕、肩、背中などの筋肉の動きがよく分る