[オペラ] ヘンデル《ジュリオ・チェーザレ》 新国

[オペラ] ヘンデルジュリオ・チェーザレ》 新国 10月10日

(写真↓は、クレオパトラの侍女ニレーノを歌う、新進のカウンターテナー村松稔之、歌舞伎の女形よりもずっと女に見える、ミーハーの女の子女の子したニレーノを完璧に演じきった)

3月に川口リリアで見たので、これが二度目。それにしても素晴らしい作品だ。これは宝塚の原型と言ってよいだろう。初演(1724)では、シーザー、トロメーオ[=クレオパトラの弟]、侍女ニレーノの三人をカストラートが、コルネリアの息子セストをメゾソプラノが歌っているから、登場人物は男性性よりも女性性の方が圧倒的に高い。そして、本作は宝塚よりも芸術性が高いので、ヘンデルと同時代の文化エリートの男性観客にも受けたはずだ。初演が大ヒットして、その後も繰り返し再演されたのも頷ける。殺しや仇討ちなどシリアスな要素もあるにはあるが、一言でいえば、これは「ロマンティック・ラブコメディー」の傑作だ。ヘンデルの場合、たまたまオペラという形式だったが、現代なら少女コミックで発表しても大受けするだろう。「シーザーくんとクレオパトラちゃんのロマンティックな初恋」というタイトルで、アメリカのハイスクール学園もの映画に仕立ててもヒットするかな。(写真はクレオパトラと弟のトロメーオ[藤木大地=カウンターテナー]、そして女官たち)

本作の肝は、シーザーを、マッチョではなくイケメンの美青年に、クレオパトラを、ミーハーでキャピキャピした小娘に造形したことにある。クレオパトラといえば、成熟した大人の女性のイメージだが、史実では、彼女は18歳で女王に即位しているから、まだ小娘でもおかしくはない。もっとも、同時に彼女とともに「共同統治」した新国王の弟トロメーオは7歳だったから、本作で少し兄のように造形されているのは史実と違う。いずれにしても、今回の舞台では、クレオパトラを歌った森谷真理が断然よかった。ミーハーな小娘ぶり全開で、何という可愛いクレオパトラ!パンフの解説では、彼女はシーザーとの恋によって「成長する」とされているが、終幕近く、嬉しくて嬉しくてルンルン気分で飛び跳ねるクレオパトラを見ると(ここがクライマックスシーン!)、彼女は最後までお茶目な小娘なのだと思う。写真↓の右下は、終幕近く、ナンパ船!の帆の下で、シーザーの前に、絨毯で海苔巻きにされたクレオパトラが、絨毯から「ばぁ!」と現れるシーン。このコミカルな軽さがいい!

本作では、なぜカストラートがこれほど活躍し、宝塚的なのかと言えば、それは男性の究極の美は、マッチョにはなく、やや中性的な「女性寄り」のところにあると、ヘンデルが考えたからだろう。古代ギリシアのプラクシテレスのアポロン彫像が(アポロンは最も美しい男性)、少年にも少女にも見えるのと同様だ。写真↓は、シーザーを歌ったメゾソプラノのキーランド。完璧な美形の青年だが、声がやや乏しく、クレオパトラ(森谷真理)に負けていたと思う。

本作、舞台はパリ・オペラ座ですが1分48秒の動画

(1387) Giulio Cesare - Opera of the Year - MEZZO (English version) - YouTube

第1幕全部(85分)もありました。

(1387) Giulio Cesare (Handel) (Natalie Dessay) Part 1 (2012) - YouTube