[今日の絵] 10月前半

[今日の絵] 10月前半

1 Jacques-Émile Blanche : プルーストの肖像1892

明日からは、プルースト失われた時を求めて』に出てくる絵を少し紹介、最近、岩波文庫版の訳者吉川一義氏が中公新書に纏められた、まずプルースト1871~1922の21歳のときの肖像から、この時代の男性は、この年齢で立派な大人に見える、ジャック-エミール ブランシュ1861~1942はフランスの画家

 

2 Tiziano : 鏡の前の若い娘1515

失われた時を求めて』の主人公「私」は少女アルベルチーヌに憧れる、「長い髪の巻き毛がいくつも両頬に垂れ、その乾いた褐色の髪との対比でバラ色の肌がいっそう際立つ」彼女に近づいて、耳元で「きみのお下げはラウラ・ディアンティとそっくりだね」と囁く、ラウラとはこの絵のモデル

 

3 Botticelli :「モーセの試練」の一部、左が(エテロの娘)チッポラ 1482

スワンはある日オデットが「豪華な刺繡をほどこした布をコートのように羽織り、それを胸元にかき合わせてスワンを迎え、ほどいた髪を両頬に垂らし、すこし踊るような姿勢で片脚を曲げて首をかしげる」姿の美しさに驚嘆し、彼女に恋をした、「チッポラにそっくりだった」ので

 

4 Renoir : 大水浴図1887

失われた時を求めて』には「エルスチール」というルノワールがモデルの架空の画家が登場、主人公「私」は、恋人アルベルチーヌを思い出すとき「エルスチールの、鬱蒼とした木の茂る風景の中に裸婦を配した絵の、娘たちの一人が片足を持ち上げている」姿を想起する、その絵がこれだが、左手前の少女の体勢は、ちょっとエロい

 

5 マンテーニャ : 聖セバスティアヌス 1480

パリのエンジニアであるルグランタンは洗練されたエリートだが、貴族に憧れているのに嫌ってみせるスノッブ、語り手は彼が「ゲルマントという[貴族の]名を耳にしたとたん・・、その眼差しは体に矢を打ち込まれた美男の殉教者と同じで痛々しかった」と皮肉る、「スノビズムに殉じる聖セバスティアヌス」とも言う、確かにこれは複雑な眼差しだ

 

6 ボッティチェリ : ザクロの聖母 1487

スワンの恋」の部で、スワンは高級娼婦オデットに惹かれるが、結局別れる、彼女が他の男との逢瀬を彼に隠す時、悲しげな表情をするからだ、彼女は「聖母が幼子イエスをザクロで遊ばせる時のような、打ちひしがれた悲痛な表情を浮かべ、それが今のオデットの顔だった」、その絵がこれ、それはともかく、この絵は聖母の周りの天使たちが美しい

 

7 ボッティチェリ : マニフィカトの聖母(一部) 1481

しかしスワンは気が変わり、オデットと結婚。スワン夫人となったオデットは「肉がついてはるかに健康になり、前より落ち着いたみずみずしく爽快な顔をしている、・・がなぜか、スワンが彼女のために買った『マニフィカトの聖母』そっくりのブルーとバラ色のマフラーは身に付けない」

 

8 アングル : グランド・オダリスク1814 /マネ : オランピア 1863

ゲルマント公爵夫人は言った、「ルーブルで、マネの『オランピア』のそばを通りかかりました。今ではあの画なんかに驚く者は誰一人いません。アングルの作に見えますからね!」、この二枚がルーブルに並んだのは1907年、駄作とけなされたマネの絵が名画になったのを皮肉っている

 

9 Rembrandt : 窓辺の少女1645

今日からは「少女」、よく描かれる主題だが、少女の魅力は大人の女性とは違うので、特有の難しさがある、写真を撮る時と同様、子供は画家が望むような表情をしてくれない、しかしこのレンブラントの「窓辺の少女」は、いかにも少女らしい表情をしている

 

10 Pissarro : 団扇を持つジャンヌ1873

人のいる農村や街の画で名高いピサロは、人物をアップで描いても味がある、この絵のジャンヌは、ピサロの末娘、体が弱く翌年8歳で死亡、この絵でも病的で悲しそうな表情をしている、団扇の表側には絵があるのだろうが、それは見えない

 

11 Renoir : Portrait of a Little Girl 1880

この絵は彩色が未完成に見えるが、右下に署名があるから、描くべきところは描き終わったのだろう、少女の表情が完璧に表現されている、子どもを描いたら、おそらくルーベンスと並んでルノワールが最高だろう

 

12 William-Adolphe Bouguereau : Portrait of Gabrielle Cot, 1890

ブグロー1829~1905はフランスの画家、伝統的なアカデミックなスタイルで描き続け、マネ以降の印象派とは一線を画した、モデルのガブリエルは、ブグローの弟子の画家ピエール・コットの娘、彼女が美しいので描いたらしく、ブグロー唯一の非委託絵画といわれる

 

13 Klimt : ヘレネクリムトの肖像1898

クリムトの姪ヘレネの6歳の頃、クリムト1862~1918の描く女性は、顔の頬に独特のふっくらした存在感と魅力があり、この絵は少女で横顔だが、やはりそれが当てはまる、髪も服もその「ふくらみ」感がいい

 

14 Serebriakova : Katya in blue dress by christmas tree, 1922

ジナイーダ・セレブリャコワ1884~1967はウクライナ出身の画家、1924年にパリに移住、素晴らしい人物画が多く、彼女の描く子どもはどれも、その存在そのもののが祝福されているかのようだ、これは一番下の娘エカテリーナで9歳、クリスマスツリーの前でちょっと澄ましている

 

15 Picasso : Artist's son 1925

「芸術家の息子」、おそらく最初の妻オルガとの間に生まれた長男パウロPauloで4歳と思われる、目、鼻、口、顔の輪郭など、ほんのわずかな線だけでこれだけ表現できるのが、まさにピカソ、女の子のように可愛い男の子であることがよく分かる

 

16 河野桂一郎 : MY No.10, 2022

河野1966~は写実の画家、第97回白日会展で内閣総理大臣賞受賞、自分の娘を繰り返し描いており、どれも娘の成長する様子が読み取れて、とてもいい、この絵は2022年9月の個展(三越画廊)で展示された、少女らしさも、日々新たに変わってゆく