[オペラ] K.プッツ ≪めぐりあう時間たち≫ Metライブ

[オペラ] ケヴィン・プッツ≪めぐりあう時間たち≫ Metライブ Movixさいたま 2月6日

(写真は↓、左から三人の女性たち、主婦ローラ、編集者クラリッサ、作家ヴァージニア・ウルフ、異なる時間に生きる彼女たちだが、舞台のうえでは「時間がめぐりあい」、それぞれの「愛」が木霊のように反響し合い、他者へと伝わってゆく)

新作オペラで、2022年11月22日にMetで世界初演、この映像は12月10日の舞台。もとは、M.カニンガムの小説『The Hours めぐりあう時間たち ― 三人のダロウェイ夫人』をオペラ化したもの。ヴァージニア・ウルフの代表作『ダロウェイ夫人』は最初の仮題が「The Hours」だったことに由来している。2002年に映画化されているが、歌手のルネ・フレミングの提案でこのオペラ版が作られた。プッツ1972~はアメリカの作曲家で、実に素晴らしいオペラになった。演出はフェリム・マクダーモット。1923年、『ダロウェイ夫人』を書き始めるがうまく書けずに苦しむヴァージニア・ウルフ(歌手はジョイス・ディドナート)、1949年に『ダロウェイ夫人』を愛読するロサンゼルスの一主婦ローラ・ブラウン(歌手はケリー・オハラ)、1999年にニューヨークの女性編集者クラリッサ・ヴォーン(歌手はルネ・フレミング)。異なる時代に異なる場所に生きる三人の女性は、みな「愛」に苦しんでいる。ウルフ本人は優しい夫レナードと、主婦ローラは明るいキャラの夫と可愛い息子の家族と、クラリッサはエイズで死にそうな詩人の元恋人と、それぞれ愛の葛藤を抱えている。登場人物たちはそれぞれ『ダロウェイ夫人』に出てくるが、少しずつ変えた物語になっているようだ。原作『ダロウェイ夫人』作中の言葉が、繰り返されるのがとてもいい。たとえば、クラリッサの「(夜に自宅で催すパーティのための)花は自分で買いに行く」。女中に任せず、「自分で買いに行く」ところが重要なのだ。(写真↓中央は、花を買うクラリッサ、ギリシア悲劇のコロスのように合唱がとても美しい)

めぐりあう時間たち』の主題は「愛」であり、「めぐりあう時間たち」に、私はキルケゴールの言う「取り戻しWiederholung」が実現しているのを感じた。キルケゴールは、「愛」は「永遠を今に引き寄せること、つまり<取り戻し>である」と考えた。夫との愛、子どもとの愛、元恋人との愛など、三人の女性たちの愛は、それぞれ異なる時間における愛なのだが、それが舞台の上で<同時性>となって響き合う↓。まことにオペラという表現様式にふさわしい題材だと思う。(写真↓は、舞台(二階は1949年、一階は1923年、それらが同時に存在する)、それから順に、子どもたちとヴァージニア・ウルフと彼女の姉ヴァネッサ・ベル、次は、息子と母ローラ、そしてエイズの恋人とクラリッサ)

三人の女性が愛の葛藤に非常に苦しんでいることが、深く表現されている。ヴァージニア・ウルフ自身が自殺したことと、この作品におけるクラリッサの恋人の飛び降り自殺とは何か関係あるのか、そこはよく分からなかった。しかし、愛の葛藤が苦しければ苦しいほど、それだけ愛の喜びは大きく、まさしく愛は恩寵であるのだ。それが、本作では合唱と重唱のこのうえない美しさで表現されている。あと、ダンサーのパントマイムで創作者の苦しみを表現しているのも、見事だった。(写真は、創作に苦しむウルフと、ニューヨークの群衆の中の孤独に苦しむクラリッサ、そしてコンテンポラリーダンス)

動画が二つありました。すばらしい合唱と、終幕の三重唱!

2/3(金)より公開!映画化もされた名作小説をオペラ化!《めぐりあう時間たち》リハーサル映像②(R・フレミング) - YouTube

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