[演劇] シェイクスピア『ジョン王』

[演劇] シェイクスピア『ジョン王』 埼玉会館 2月17日

(写真↑は、私生児フィリップ[小栗旬]とジョン王[吉田鋼太郎]、後方は貴族たち)

 

吉田鋼太郎演出。『ジョン王』はシェイクスピア劇でも特に不人気で、イギリスでもめったに上演されない。日本ではおそらくこれが実質的には四回目の上演。人気がない理由は、史実のジョン王は徹底的にダメな王様であったことと、彼は、フランス人であるノルマンジー公ウィリアムの英国征服から三代目の王で、イギリスとフランスの関係が今とまったく違うので、複雑な政治状況に観客の想像力が及ばないことがあるだろう。あと、今回の舞台を見て気が付いたのだが、最後にジョン王が修道院で毒殺されること、後をすんなり息子ヘンリー王子が継ぐこと(ヘンリー三世)の唐突さが、原作のキズだと思った。しかし、この吉田演出は素晴らしく、松岡訳をもとに上演台本を彼が作ったのだが、登場人物の幾つかのエピソードを強調して前景化したこと、登場人物たちが歌を歌う音楽劇化したことなどによって、作品をとても面白い芝居として現実態にした。(写真↓は、コンスタンスとフランス王、その下は、ブランシュ姫とフランスのルイ皇太子)

この作品の面白さは、王も貴族も国益など考えずに私利私欲だけで行動している点にあるだろう。ジョン王が一番ひどいのだが、ローマ法王代理の枢機卿なども含めで誰もが私利私欲を行動原理にしている。そして、プログラムノートの浜矩子が書いているように、登場人物の誰もが互いに共感感情をもっていない(少年であるアーサーを除く)。そして観客も、ヒューバートとアーサー以外にはほとんど誰にも共感を感じない。これは、演劇はその本質において、観客の共感を原理としていることを考えると、驚くべきことだ。研究者がシェイクスピア『ジョン王』について、作品論をもっと書くべきだろう。この作品の重要なポイントの一つは、終幕、フランス軍もイギリス軍も嵐や高波によって軍勢が大きく損なわれ、最後の決戦はなくなったことである。結果的に、ジョン王はフランスにある領土をすべて失ったが(これは史実)、最後の一大決戦なしにそうなったのである。おそらく吉田演出は、これをロシア・ウクライナ戦争に重ねているのではないか? 私はそう感じた。訳者の松岡和子が書いているように、『ジョン王』はほぼ全部が言葉の争いであって、実際の闘いは出てこない。それに対して、この吉田演出は、剣を抜いて闘う姿を舞台でたくさん見せ、まるで歌舞伎のようだ。戦争を強調したかったからだろうが、上演方式としても、この方がよかったと思われる。

動画がありました。

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