[オペラ] ヴェルディ《リゴレット》

[オペラ] ヴェルディリゴレット》 新国立劇場 6月3日

(写真↓は舞台、ビルバオ歌劇場のも混じる、下は冒頭の舞踏会シーン)

10年前の、新国のクリーゲンブルグ演出版では現代の東京に場所を移していたが、このエミリオ・サージ演出版は伝統に沿った演出で、衣装もルネサンス期か。今回の方が全体に深みがあり、この作品にふさわしい舞台になった。ユゴーの戯曲『王は愉しむ』が原作だが、しかし実際は『リア王』がモデルなのだ。終幕、ジルダの死体を前に泣く父リゴレットは、コーディリアを抱いて泣くリアにそっくり重なる。それにしても、今回は、ハスミック・トロシャンのジルダもよかったが、何よりもリゴレットを歌ったロベルト・フロンターリが素晴らしかった。65歳だというが、何という深みのあるリゴレット。父娘の愛が本作の主題なのだから、これ以上の適役はないと思われる。最後、死の直前、ジルダは虫の息で「お父様、ごめんなさい、許してください!でも、この私を祝福してください!」と歌う(写真↓右)。これがオペラ《リゴレット》のすべてだ。ジルダは、自分の父への愛とマントヴァ公爵への愛とを両立させようとして、自分が身代わりとなり殺し屋に刺し殺されて死んでゆく。ニーチェが芸術を定義して言ったように、「我々の現存在を、肯定し、祝福し、神々のようなものにする」。ジルダもリゴレットもこのように祝福されて死んでゆく。崇高な愛を表現し切った《リゴレット》は、やはりヴェルディの最高傑作だろう。

第三幕の四重唱やマントヴァ公爵の「女心の歌」があれほど美しいのは、ジルダの父への愛と、ジルダのマントヴァ公爵への愛が等価で祝福されているからだ。彼女は遊び人のマントヴァ公爵を愛してしまい裏切られた愚かな娘ではない。彼が裏切ったとしても、彼女の深い愛はいささかもゆるがない。この上演は、舞台の美しさも特筆すべきだ、孤独なジルダが天使のよう。(写真↓上の右上、写真下の左下ドアの外、下はビルバオ歌劇場)

4分強の動画が↓

新国立劇場オペラ『リゴレット』より(2023年5月)Rigoletto - New National Theatre Tokyo, 2023 - YouTube