[オペラ] ヴェルディ《シチリアの晩鐘》 アーリドラーテ歌劇団 新国 6.22


初見だが、素晴らしい作品だ。ヴェルディには珍しく、戯曲や文学からではなく、「シチリア島民の蜂起」という13世紀の史実から直接に作られた作品。主人公のエレーヌ公女が、敵国の貴公子との恋と、祖国愛とに引き裂かれるという悲劇で、《アイーダ》に少し似ている。普通は省略される第三幕のバレー「四季」が35分間、ノーカット、伝統的なバレーにコンテンポラリーダンスを加味した振付で、素晴らしい。ヴェルディは舞曲的な音楽が美しいことに、あらためて感嘆。(写真↓は終幕、虐殺シーン)

本作は、素晴らしいアリア、重唱、合唱が多い名作だが、あまり上演されない(東京では、今回が初演!らしい)のは、終り方が、やや後味が悪いからだと思う。支配者のフランスと圧制に苦しむシチリア島のイタリア人との対立、暴動、殺戮という文脈に、エレーヌ公女とアッリーゴとの恋が破綻するわけだが、《アイーダ》のように二人が愛を完遂して死ぬのではなく、終幕、民衆が放棄してアッリーゴを含むフランス人支配者は全員が殺される。イタリア人エレーヌは死なない。二人の愛ではなく、ナショナリズムが究極の主題になっているようにも感じられる。指揮者・企画者の山島達夫が言うように、本作はメロドラマではなく歴史劇なのだ。1855年パリ初演だが、イタリア統一戦争直後でもあり、観客は政治を強く意識したはずだ。(写真↓は、NACHI氏のX画像を借用、中央がエレナ(石上朋美)、左にモンフォルテ(須藤慎吾)、右にアッリーゴ(村上敏明)とプローチダ(デニス・ビシュニャ))

エレナ役のソプラノ石上朋美は、非常に迫力のある歌唱が素晴らしかった。シチリア・ナショナリズムの中心人物プローチダを歌ったバスのビシュニャも、低い声が怖い感じで名演。ウクライナ人だが、今の時点でこの役を歌うことに感慨があるかもしれない。それにしても、アマチュア楽団から出発してこれだけの舞台を創りあげた山島達夫とアーリドラーテ歌劇団に拍手を送りたい。