[演劇] 松原俊太郎『光の中のアリス』 シアター・トラム 11.1
(↓左から東出昌大[バニー]、古賀友樹[ナイト]、伊東沙保[ミニー]、荒木知佳[ヒカリ])
小野彩加/中澤陽演出。初めて見るタイプの演劇で、かなり尖がった前衛的な寓話劇。とても面白かった。精神分析的な言葉遊びに溢れ、苦悩する現代の若者が、少しだけ自由になるという話。冒頭から、メタレベルに定位した大きな言葉が宙を泳ぎ、それに抗するように地を這う肉体のパフォーマンスとが、あやうい均衡を保ちながら、100分の時間が流れる。劇中、繰り返し発話されるキー・ワードは「おもヒで(思い出)」⇒「おもに(重荷)」⇒「うつ(鬱)」。我々の人生は、たいがいちっぽけでつまらない。「物語」も「夢」もほとんどない。「偶然の嵐の中で踊らされている」みたいな受動的な毎日。
ワンルームアパートに暮らす二人の恋人ナイトとヒカリは、愛があるようでないようで、ないようであるようで、でもしょっちゅういがみあっている。ディズニーランドに行っても、安っぽい「夢」で癒されることはない。バニーは屈折したキャラクターで、いつも自虐的。ヒカリはつねに怒っている。しかし、あるときから、どちらかというとぎくしゃく動いていたミニーが、ローラースケートですいすい動くようになる。そのうち、友人関係も少しづつ変容し、どういうわけか、「おもヒで」が「おもイで」と、「いかり」が「ひかり」と発音されるようになる。アナーキーな踊りで「偶然の嵐」に対抗するのではなく、新しく何か「する」わけでもない。むしろ「何もしない」のだが、それでいいのだ。相変わらずパントマイムは苦しそうだが、話される言葉と音楽性がなぜか変容し、話す⇔聴くの相互性が喜びを生み出すことが分ってくる。そう、こうして若者たちは、少し自由になったのだ。
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