[今日のうた1]
30年以上も昔になるが、朝日新聞に毎日、大岡信氏の「折々のうた」が連載された。私はこのコラムが特に好きで、長い間ずっと愛読してきた。そして、いつかは自分でも、好きな短歌や俳句、短詩(たとえばディキンソンのような)のアンソロジーを作ってみたいと考えていた。7年前にこのブログを始めたときは、それを始めたつもりだったが、ブログは短詩一つには容量が大きすぎるので、最初だけで挫折してしまった。
今月、ちょうど手頃なツイッターで(140字以内)、一日一句(首)のアンソロジー作りを始めたので、適当な分量がたまったところで、ブログにまとめてみたい。日付はツイッター投稿日。
・ 係恋(けいれん)に似たるこころよ夕雲は見つつあゆめば白くなりゆく
(佐藤佐太郎『帰潮』 「係恋」とは恋い慕うこと) 8.16
・ 夏河を越すうれしさよ手に草履 (蕪村) 8.17
・ 炎天の遠き帆やわがこころの帆
(山口誓子 1945年8月23日作 66年前のちょうど今日、敗戦直後の海を見はるかす誓子、「遠き帆」はたぶん実景、生き延びた者の魂の帆、戦死者の鎮魂の帆) 8.23
・ 手も触れで月日へにける白檀(しらまゆみ)おきふし夜はいこそ寝られね
(貫之『古今集』巻12 「長い間触れなかった白い檀の木で作った美しい弓を取って、立てたり伏せたりするように、今夜はいったん寝ても、触れることのできない美しい貴女を思ってまた起きてしまう」) 8.24
・ 恋ひ恋ひて逢へる時だにうるはしき言(こと)尽くしてよ長くと思はば
(大伴坂上郎女『万葉集』巻4 「やっとやっと逢えた時くらい、思いっきり優しい言葉を言ってほしいな、ずっと私を放したくないなら」) 8.25
(あと[=すそ]に寝ばやと申す人に)
・ 寝られねばとこなかにのみ起き見つつあとも枕も定めやはする
(和泉式部、「(床の裾に寝たいとあなたが言うので) 変なこと言うのね、私は眠れないから床の真ん中で起きて見てるわ、裾の方だろうと枕の方だろうと、お好きにすれば」) 8.26
・ 恋愛と全く無縁落し文 (阿波野青畝「落し文」は虫の名 名詞の多義性の妙) 8.27
・ 水打てば夏蝶そこに生れけり (高浜虚子、「生れけり」の卓抜さ) 8.29
・ かんがへて飲みはじめたる一合の二合の酒の夏のゆふぐれ (若山牧水、『死か芸術か』1912) 8.30