2006-01-01から1年間の記事一覧

ワルシャワ室内歌劇場『ドン・ジョバンニ』

[オペラ] モーツァルト『ドン・ジョバンニ』 ワルシャワ室内歌劇場 東京文化会館 (写真は、ジョバンニの地獄落ち後、大団円のフィナーレ。前列左より、マゼット、レポレロ、ツェルリーナ、ドンナ・アンナ、ドンナ・エルヴィラ、ドン・オッターヴィオ) 色々な…

永井均『西田幾多郎』(2)

[読書] 永井均『西田幾多郎』(NHK出版) 永井氏によれば、西田の「純粋経験」はそれ自体の内に抽象的一般者を作り出す力を持っており、それが「場所としての私」である(p64f)。「場所としての私」は、「私が私に於いて私を知る」という「自覚」を行う(50)…

ワルシャワ室内歌劇場『後宮からの誘拐』

[オペラ] モーツァルト『後宮からの誘拐』 ワルシャワ室内歌劇場公演 渋谷オーチャドホール (写真は舞台より。左側がヒロインのコンスタンツェ、右側が女中のブロンデ。中央はトルコ人の番人オスミン。逃げようとした4人を捕らえたところ。) コンスタンツェ…

永井均『西田幾多郎』(1)

[読書] 永井均『西田幾多郎』NHK出版(06年11月刊) (写真は切手になった西田幾多郎。書かれている歌は「わが心深き底あり喜も憂も波もとどかじと思う」。永井氏の「心に触れた」歌として本書にも紹介されている。p42) 永井均氏の新著が出た。非常に面白かった…

田島正樹氏の『ヨブ記』論

(挿絵はブレイクの『ヨブ』より) 田島正樹氏が、10月6日より、ご自身のブログ「ララビアータ」で、旧約の「ヨブ記」について覚書を連載されている。↓ http://blog.livedoor.jp/easter1916/ 実にスケールの大きな興味深い解釈なので、この問題に関心を持つ者…

カント『永遠平和のために』

[読書] カント『永遠平和のために』中山元訳 (光文社古典新訳文庫、06年9月刊) (解任されるラムズフェルト国防長官。バクダッド制圧時の高笑いも昔の話。) 中山元氏の新訳が出たので、久しぶりに読み返した。『啓蒙とは何か』他4篇の短論文を合わせて収録し…

ラモー『レ・パラダン』

[オペラ] ラモー『レ・パラダン(遍歴騎士)』 パリ・シャトレ座公演 渋谷・オーチャドホール (写真右は、ヒロインのアルジと遍歴騎士アティス。写真下は、CG画面の人物像と、実物のダンサーとが「混在して」踊る場面。) バロック・オペラの実演を初めて観た…

モーツァルト『劇場支配人』

[オペラ] モーツァルト『劇場支配人』 朝日ホール (高橋英郎台本、モーツァルト劇場公演) (写真右は、ポスターより。写真下は、ウィーン・フォルクスオーパー公演『劇場支配人』、2006年3月) モーツァルト生誕250年の今年、ザルツブルク音楽祭では彼のオペ…

モーツァルト『イドメネオ』

[オペラ] モーツァルト『イドメネオ』 新国立劇場 (写真右は、今回の舞台。オーソドックスな演出で、中央がポセイドンの像。写真下は、バルセロナ歌劇場公演『イドメネオ』(’06,3月)。現代風の演出で、トロイ側の捕虜をギリシアの兵士が監視している。前に座…

斉藤慶典『デリダ』

[読書] 斉藤慶典『デリダ − なぜ「脱-構築」は正義なのか』(NHK出版) 斉藤氏の新著が出た。デリダについては、すでに高橋哲哉氏の優れた解説書があるが(『デリダ−脱構築』講談社 1998)、本書の特徴は、「脱構築」と正義との一体性に焦点を絞っている…

永井愛『書く女』

[演劇] 永井愛作・演出『書く女』 世田谷パブリックシアター (ポスターの写真は、樋口一葉を演じる寺島しのぶ。永井愛の仕事机で永井のTシャツを借りて撮ったと、アフター・トークで寺島の弁。) 6月に『やわらかい服を着て』の新作上演を行ったばかりの永井…

長塚圭史『アジアの女』

[演劇] 長塚圭史作・演出『アジアの女』 新国立劇場小H (写真右は、岩松了と富田靖子。写真下の右人物が近藤芳正。) 劇団・阿佐ヶ谷スパイダースを主宰する長塚圭史は1975年生れの若手。劇を見るのは初めてだが、胸を締め付けられるような不条理劇だったの…

城繁幸『若者はなぜ3年で辞めるのか?』

[読書] 城繁幸『若者はなぜ3年で辞めるのか?』(光文社新書) (写真は、雇用法改正に反対してデモをするフランスの大学生。) 現在、大学では学生の就職が大きな問題になっている。インターンシップなど、自分と就職先の「ミスマッチ」を減らすように、さまざ…

田島正樹『読む哲学事典』(10)

[読書] 田島正樹『読む哲学事典』(講談社現代新書) (挿絵は、パラス・アテナ。16世紀イタリアの画家、パルミジャニーノの作。ギリシア彫刻とは違い、優美な女性だ。アテナ女神は”戦闘美少女”の元祖だが、このアテナには戦闘性は感じられない。) 本書の解題は…

田島正樹『読む哲学事典』(9)

[読書] 田島正樹『読む哲学事典』(講談社現代新書) (挿絵は、哲学者ヘーゲル) 「弁証法と(再)定義」の節も、注目に値する。哲学史を大きなスケールで捉え、しかも個々の読みが深い。田島氏は、まずアリストテレスの「弁証法(弁証論)」に立ち返る。我々は言…

宮本亜門演出『フィガロの結婚』

[オペラ] 二期会『フィガロの結婚』 宮本亜門演出、渋谷オーチャドホール(写真は、2002年の初演の舞台。第三幕、中央右の"弾けるような"スザンナが素晴しい。今回の再演もほとんど同じ。) 今回は、院生・学生ら6人の人たちと一緒に観劇。宮本亜門の演出を堪…

野村萬斎『敦 山月記・名人伝』

[演劇] 野村萬斎『敦 山月記・名人伝』 世田谷パブリック・シアター (写真右は、『名人伝』の紀昌を演じる野村萬斎。後ろは弓の名人、飛衛を演じる石田幸雄。下は、萬斎演じる中島敦。) 野村萬斎が中島敦の『山月記』『名人伝』を演劇化。構成、演出、主演を…

田島正樹『読む哲学事典』(8)

[読書] 田島正樹『読む哲学事典』(講談社現代新書) (写真は、メラニー・クライン(1882-1960)。フロイトに師事し、幼児の精神分析で名高い。) 「ここと私」の節を解題。この節は本書の中では難解な部に属する。田島氏は、「もし実際に私が田島であるならば、…

田島正樹『読む哲学事典』(7)

[読書] 田島正樹『読む哲学事典』(講談社現代新書) (写真は、哲学者フレーゲ。「意味」を「Bedeutung(=reference、指示対象)」と「Sinn(=sense、意味内容)」との両面から捉えた。これによって、意味と真理の関係を明確に論じられるようになった。) 「言語…

田島正樹『読む哲学事典』(6)

[読書] 田島正樹『読む哲学事典』(講談社現代新書) (写真は、女神「テュケー」像の頭部。紀元1世紀頃の作。) 本書でもっとも面白い節の一つ、「運と偶然」(p59〜67)について、少し考えてみたい。田島氏の主題ともいえる「新しい意味の生成」の問題が、「運…

土井隆義『個性を煽られる子どもたち』

[読書]土井隆義 『個性を煽られる子どもたち』 (2004年9月刊、岩波ブックレット) (挿絵は、ラ・トゥールの「マグダラのマリア」。じっと自分を見詰めて「私探し」をしているのだろうか?) [8月末に父を亡くし、少し身辺が忙しかったので更新が遅れました…

『聖書』を読む(4)

[読書] 『ヨブ記』(関根正雄訳、岩波文庫) (挿絵は、同じくブレイクの描いたヨブ。) C.G.ユングの『ヨブへの答え』(原書1952)は非常に面白い。邦訳は二種類(野村美紀子訳/ヨルダン社、林道義訳/みすず書房)。ユングは、神を「集合的無意識」として…

『聖書』を読む(3)

[読書] 『ヨブ記』(関根正雄訳、岩波文庫) (挿絵は、英国ロマン派の詩人ブレイクの描いた「ヨブ」。サタンに苦しめられるヨブ。) 『ヨブ記』を25年ぶりに(?)再読した。『ヨブ記』は、旧約聖書中もっとも重要な作品の一つだが、解釈が大きく分かれる問題…

『聖書』を読む(2)

[読書] 『新約聖書・福音書』(塚本虎二訳、岩波文庫) (右挿絵はコレッジオの、左下はフラ・アンジェリコの、どちらも「ノリ・メ・タンゲレ(我に触れるな)」。マグダラのマリアに園丁と間違えられたイエスの、鋤が描かれている。前回の日誌の最後の話の絵…

『聖書』を読む(1)

[読書] 『新約聖書・福音書』(塚本虎二訳、岩波文庫) (右挿絵は、18世紀初頭にアメリカで描かれた「エマオの巡礼」、左下の挿絵は、14世紀初頭のブオニンセーニャによる「エマオへの道」。どちらも突然現れたイエスが、いたずらっぽく二人の巡礼に話しか…

「出生率」はむずかしい

(右挿絵は、フラ・アンジェリコの「受胎告知」、下の図版は2005年度国勢調査にもとづく未婚率。男女とも未婚率が大幅に上昇した。) 最近、日本の「出生率1.25」という数値が話題になったが、「出生率」という概念はなかなか奥行きが深い。インターネットで少…

上野修『スピノザ』

[読書] 上野修『スピノザ −「無神論者」は宗教を肯定できるか』(NHK出版、06年7月) (写真は、スピノザ像) (実家の父を介護していた母が倒れて入院したので、少々ブログの更新が遅れています。) 「シリーズ・哲学のエッセンス」の『スピノザ』が刊行された。…

J.フォード『あわれ彼女は娼婦』

[演劇] ジョン・フォード『あわれ彼女は娼婦』 蜷川幸雄演出、渋谷コクーン (写真はいずれも、兄ジョバンニと妹アナベラの交歓シーン。左上は、今回の公演、三上博史と深津絵里。左下は、1993年、デヴィッド・ルヴォー演出、TPT公演、豊川悦司と西牟田恵。右…

ホルヴァート『フィガロの離婚』

[演劇] ホルヴァート『フィガロの離婚』 鵜山仁演出、地人会公演 紀伊国屋サザンシアター ホルヴァート(1901〜38)は、クロアチア生まれのドイツの劇作家。ブレヒトに似た「民衆劇」の作家として知られ、『ウィーンの森の物語』『カシミールとカロリーネ』は…

田島正樹『読む哲学事典』(5)

[読書] 田島正樹『読む哲学事典』(講談社現代新書) (挿絵は、古代ローマの将校である百卒長(=百人隊長)。息絶えた十字架のイエスを前に、「本当に、この人は神の子だった」と述べたと、福音書は記す。) 『読む哲学事典』のコメントを再開する。9月まで折に…