2004-01-01から1年間の記事一覧

t.p.t.「三人姉妹」

[観劇] 12.28 チェホフ「三人姉妹」 t.p.t.公演 ベニサン・ピット演出はアッカーマン、台本はマメットの英訳(やや翻案)の邦訳。若さのただ中で悲しみを爆発させる「三人姉妹」だ。まず主要登場人物が圧倒的に若い。三人姉妹というより、同い年の三つ子の姉…

ワルシャワ室内「フィガロ」

[オペラ] モツァルト「フィガロの結婚」 ワルシャワ室内歌劇場 オーチャドHたくさん観た「フィガロ」の中でも、今回は歌手に不満を感じた。先週の「魔笛」のパパゲーノとパミーナ役が、それぞれフィガロとスザンナ。この二人はよい。問題は伯爵夫人と伯爵だ…

ワルシャワ室内Op「魔笛」

[オペラ] 12.11 モツァルト「魔笛」 ワルシャワ室内歌劇場 東京文化会館モツァルトの全オペラを恒常的に上演できる歌劇場とのこと。色々と発見があった。まず、「魔笛」の音楽の最良の部分は、パパゲーノを軸としていること。全体にアリアよりも重唱に生彩が…

英語で読む短歌(1)

[短歌] リービ英雄『英語でよむ万葉集』を読んだ。中から、人麻呂の歌を二首。 あみの浦に 船乗りすらむ をとめらが 玉藻のすそに 潮満つらむか On Ami Bay, the girls must now be riding in their boats. Does the tide rise to touch the trains of their…

土屋賢二氏のジャズ

[音楽] 11.26 土屋賢二ハッピーバースデイ演奏会 上智の非常勤の帰りに、入谷のライブハウス、FOUR&MOREに寄る。地下鉄の入谷駅を出ると、浅草の「酉の市」に向かう人で、下町らしい賑わい。こんな日のジャズの演奏会は、なかなか味がある。土屋氏はpf。大学…

英語で読む俳句(1)

[俳句] 俳句はミニマムな詩ですが、意訳ではなくミニマムな直訳でも、外国語の詩になるように思います。俳句を英語圏に紹介するのに功績のあった、Harold G. Henderson の Haiku in English 1967 から、二つ抜き出してみます。 Blooming after at viewing af…

「喪服の似合うエレクトラ」

[演劇] 11.19 オニール「喪服の似合うエレクトラ」 新国立中H 演出は栗山民也、主演は大竹しのぶ(ラヴィニア=エレクトラ)。アイスキュロスの「オレステイア三部作」を、南北戦争時のアメリカに置き換えて、家族の愛憎劇としてリメイクしたもの。日本での…

日本オペラ連盟「フィガロ」

[オペラ] 11.13 「フィガロの結婚」 日本オペラ連盟公演 新宿文化センター イギリスの哲学者バーナード・ウィリアムズは、「フィガロならば、たとえどんな田舎芝居でも観たい」と言ったそうだ。その気持ち、よく分る。この公演は、二期会研修生や藤原歌劇段…

酒井順子『負け犬の遠吠え』

[読書] 酒井順子『負け犬の遠吠え』(講談社 2003年10月) キャリア科目で「女性のライフサイクル」を講義するので、論点摘出。本書には多くの批判が寄せられたが、むしろ積極面を重視したい。 (1) 男女の非対称性という深い問題に触れている(p134f.)。男の…

寺山修司「上海異人娼館」

[ダンス劇?] 11.5 寺山修司「上海異人娼館」 東京キネマ倶楽部フランスの官能小説「O嬢の物語」を寺山修司が映画化した。それをダンス・エレマンが新たにダンス劇化。女優の緒川たまきとバイオリニストの川井郁子を主演にして、それにダンス陣が加わる。ジ…

永井均「私・今・そして神」

[読書] 永井均『私・今・そして神』(講談社現代新書、2004年10月刊)素晴らしい本だ。アマゾンのレヴューは短いので、書き残した補遺をここに。(1)第3章が重要。永井の独我論と私的言語の考察が、時制やカント原理vsライプニッツ原理という新しい視点から…

「オニババ化する女たち」

[読書] 三砂ちづる『オニババ化する女たち』(光文社新書) 内田樹氏のHPや反フェミニズム系サイトで絶賛されているので読んでみた。キャリア科目を担当した関係で、フェミ・反フェミ双方の動向に注意しているが、『女はすべからく結婚すべし』(島田裕巳)…

凡兆(1)

野沢凡兆は、蕉門(芭蕉の弟子)の中でもとりわけ優れた感覚の持ち主。繊細で優美な句を選んでみた。 はなちるや伽藍の枢(くるる)落としゆく 市中は物のにほひや夏の月 下京や雪つむ上の夜の雨 [鑑賞] 第一句、彼の代表作。「枢」とは、扉に施錠するために…

モツァルト「愛の女庭師」

[オペラ] 10.23 モツァルト「愛の女庭師」 モツァルト劇場公演 新国・中Hその前に、渋谷に寄って「グッゲンハイム美術館展」を見る。19世紀末から約100年間のモダンアートを時系列に展示。ある時期から突然つまらなくなるのが面白い。「モダン」なる芸術の「…

佐藤佐太郎(2)

9月29日に続いて、佐太郎の短歌。戦後の苦しい生活の中で詠んだ歌を、歌集『立房』(1947)、『帰潮』(1952)から選ぶ。自然の「写生」の中に佐太郎の「心」が映し出されるが、歌の格調の高さは、生活苦によっていささかも損なわれない。 みじかなる焔燠よりた…

親密圏のゆくえ?

[読書] 『親密圏のゆくえ』(青木書店 2004年10月) 佐藤和夫氏と豊泉周治氏の論文は面白かった。ともにハンナ・アーレントを出発点にする。日本では、アーレントのいう公的生活と私的生活のどちらも確立しないまま、「社会的なもの」によって私的生活が侵食…

小沢=ウィーンSO「フィガロ」

[オペラ] 10.14夜 「フィガロの結婚」 小沢征爾 ウィーン国立歌劇場 NHKホール皇太子(真下で見えなかったが)も来て、NHKホールは盛り上がっていた。三階席なので歌手の声がいまいち響かなかったが、オケの音の美しさが素晴らしい。弦のぴったり揃った澄ん…

黒テント「ぴらんでっろ」

[演劇] 10.14昼 黒テント「ぴらんでっろ」 中野光座ノーベル賞作家ルイージ・ピランデッロが、1921年に書いた戯曲「作者を探す六人の登場人物」を新訳で。演出と主演は斉藤晴彦。難解だが面白い作品だ。20世紀の演劇を変えた重要作という。オイディプス王の…

野矢論文を読んで

[哲学] 『思想』10月号の野矢茂樹論文は面白かった。簡単なコメントを。(1) やはりライルと同様に、「二分割」と「アキレスと亀」の違いが明確でないように思われる。「分割の視点」は隠された形で「全体」が先取りされているというのが、ライル=野矢モデル…

西研他『不美人論』

[読書] 藤野美奈子・西研 『不美人論』 (2004.3, 径書房)とても真面目な本で、優れた現代若者論であると同時に、現代社会論でもあり、倫理学でもある。漫画家の藤野は、「いままで、性格のいいブスが、ヤな性格の美女よりも一般に損しているのをみると、どう…

マールイ劇場「三人姉妹」

[演劇] 10.8 チェーホフ「三人姉妹」 ロシア・マールイ劇場公演 アートスフィア「三人姉妹」はたくさんの公演を見たが、一作一作どれも違う。三年前に同じアートスフィアで見たロシア・ポクロフカ劇場の公演は、現代的なスタイリッシュな演出だった。それと…

「恋愛イデオロギー」

新規開講の「キャリア科目」第一回終了。110人ほどが聴講。今の若者は、決められた「人生の型」を与えられておらず、「自分の人生をゼロから自分で設計しなければならない」という話から始める。半年かけて収集したデータ、統計表やグラフが威力を発揮。「国…

後期が始まった!

「美学日誌」という名前にはもとるけれど、まったく美的でない僕の日常生活の雑感や、ぼやき等も少々。後期授業が全面的に始まった。あっという間の夏だったけれど、この三ヶ月で学会誌等の論文を3本書き上げたから、まあ成果があったと納得しよう。上智と…

ルネ・ヤーコプスの「フィガロ」

[CD] 今年発売されて非常に話題になったRene Jacobs指揮の「フィガロの結婚」(オケはConcerto Koeln、2003年4月録音)。初めて聴いた時は、あまりの違和感に拒否反応を起しかけたが、もう三十回は通して聴いただろうか、ずいぶん慣れた。あらためてその演奏…

佐藤佐太郎(1)

近代短歌の最高峰の一人、佐藤佐太郎(1909-87)。茂吉ほど「幅」の広さはないが、歌のもつ芸術性は比類のない高みにある。彼の言葉によって初めて開示される自然の何という豊かさ。 はなやかに轟くごとき夕焼けはしばらくすれば遠くなりたり 幾万といふ蔦の葉…

上田三四二(1)

私の愛読書に、大岡信『折々のうた』があります。私もいつか、自分の好きな短歌、俳句、詩を集めたアンソロジーを編みたかった。それを少しづつ始めます。いわば私家版「うたの歳時記」。「ディキンソン詩集」「ウェンディ・コープ詩集」のような外国詩の試…

スピノザの懐疑論批判

議論のために「黒板」が必要なので、今日の日誌はそれに。デカルトは『省察』で根源的な懐疑論を展開した。偽なのに真と思い込ませる「悪しき霊」の仮説がその頂点に来る。スピノザ哲学は、この「悪しき霊」批判を核として成り立っており、その懐疑論批判は…

ディキンソン詩集(1)

私の好きなエミリ・ディキンソンの詩を、少しづつ訳してみます。すでに良い訳がたくさんあります。でも私は私の言葉にしてみたい。正確な逐語訳ではなく意訳です。記号のJは従来のJohnson版の、Fは新しいFrankrin版の詩番号です。ディキンソンの詩は相聞詩だ…

今日から始めます。

はじめまして。ようこそいらっしゃいました。私がcharisです。本職は哲学なので「美」は副専攻ですが、「charis」という良い名前をもらいました。ギリシア神話の、美と優雅の女神たちです。これを機に、大学の公式HPの観劇記を、8月以降はこちらへ移します。…