2009-01-01から1年間の記事一覧

演劇版『神曲・煉獄篇』

[演劇] ロメオ・カステルッチ『神曲・煉獄篇』 世田谷パブリックシアター (写真は昨年のアヴィニョン演劇祭のもの。右は、巨大な植物の夢を見る少年の心象風景。下は少年の自室とベッドを整える母。少年の横のおもちゃロボットは巨大化する。夢か、現実か、…

演劇版『神曲・地獄篇』

[演劇] ロメオ・カステルッチ『神曲・地獄篇』 東京芸術劇場・中H (写真はすべてヨーロッパ公演の舞台より。右は舞台を這う骸骨。下は舞台上の本物の馬や死者たち) イタリアの演出家ロメオ・カステリッチが率いる劇団ソチエタス・ラファエロ・サンツィオによ…

岩波講座哲学12『性/愛の哲学』(2)

[読書] 岩波哲学講座・第12巻『性/愛の哲学』(2) 2009年9月刊 (写真は、田村公江氏の別著) 収録論文の田村公江「性の商品化――性の自己決定とは」も力作である。田村論文は、ポルノグラフィーと売買春を扱うもので、「制度としての性の商品化に反対する立場…

岩波講座哲学12『性/愛の哲学』(1)

[読書] 岩波講座哲学・第12巻『性/愛の哲学』(1) 2009年9月刊 戦前から続く岩波哲学講座だが、今回、『性/愛の哲学』というテーマの巻が登場した。フロイト、ラカン、フーコー、バトラーなど、20世紀には「性」が哲学のテーマとして前景化し、ジェンダー研…

新国『ヴォツェック』

[オペラ] アルバン・ベルク『ヴォツェック』 新国立劇場・大ホール (写真右は、マリーと不倫相手の楽隊長、下は舞台全景と、マリーを刺し殺すヴォツェック) 『ヴォツェック』の実演を見るのはこれが初めてだが、胸にこたえる圧迫感のある舞台で、アンドレア…

ティルソ・デ・モリーナ『セヴィーリアの色事師と・・』

[読書] ティルソ・デ・モリーナ『セヴィーリアの色事師と石の招客』(会田由訳、『世界文学大系89』筑摩書房、1963) (写真右は、舞台写真。下は、修道僧モリーナの肖像と本の表紙) 9月に静岡芸術劇場で観たオマール・ポラス演出『ドン・ファン』が面白かった…

新国『ヘンリー六世』(三部作)

[演劇] シェイクスピア『ヘンリー六世』(三部作) 新国立劇場中ホール (写真右は、舞台より、ジャンヌ・ダルク(ソニン)。下は、ヘンリー六世(浦井健治)と王妃マーガレット(中島朋子)、民衆蜂起のジャック・ケイドの乱) 鵜山仁演出によって、シェイクスピア『…

モーツァルト『バスティアンとバスティエンヌ』

[オペラ] モーツァルト『バスティアンとバスティエンヌ』(東京文化会館小ホール) (写真右は、ビートルズのメンバーが演じた舞台の絵。下は、ドイツとノルウェーの舞台写真) モーツァルトが12歳のときに作曲したオペラ。40分強の小品だが、とても美しい作品だ…

オースティン『ノーサンガー・アビー』

[読書] ジェイン・オースティン『ノーサンガー・アビー』(ちくま文庫、09年9月) (写真右は映画版より、下は、本の挿絵と、オースティンが生まれ育ったスティーヴントンの牧師館) オースティンの6つの主要小説の翻訳を進めている中野康司氏の新訳が出た。本書…

黒テント『ショパロヴィッチ巡業劇団』

[演劇] 黒テント『ショパロヴィッチ巡業劇団』(神楽坂・iwato theatre) (写真右は、ちらし。日程は変更で22日まで) セルビアのリュボミル・シモヴィッチ(1935〜)による優れた戯曲が日本で初演された。小劇場での公演だが、いかにも劇団・黒テントにふさわし…

マスネ『マノンの肖像』他

[オペラ] プーランク『声』、マスネ『マノンの肖像』(新国立劇場小H) (写真右は今回のポスター、写真下は、2007年バルセロナのリセウ劇場で、やはり「声」と「マノンの肖像」の二本立てで行われた舞台。「マノンの肖像」の人物は右から、ジャン、オロール、…

SPAC版『ドン・ファン』

[演劇] ティルソ・デ・モリーナ原作『ドン・ファン』(SPAC=静岡芸術劇場) (写真はすべてヨーロッパ公演。右は、従者スガナレルとドン・ファン[右]、下は舞台より。楽しく騒ぐ女たちと、少年のようなドン・ファン。) コロンビア出身でフランス・スイスで活躍…

二つのシャネル映画

[映画] 『ココ・アヴァン・シャネル』(25日、池袋サンシャイン・シネマ)、『ココ・シャネル』(26日、土浦サンシャイン・シネマ) (写真右は、映画『ココ・シャネル』、下の写真は実在のシャネル) ココ・シャネル(1883〜1971)の伝記映画を二本見た。だいぶ違う…

本谷有希子『来来来来来』

[演劇] 本谷有希子作・演出『来来来来来』 (下北沢・本多劇場)(写真右は本谷有希子。下はポスターと、舞台写真。義母(木野花)と嫁の蓉子(りょう)) 本谷有希子は、7月に30歳になったばかりの劇作家。今年の芥川賞候補にもなった。昨秋の『幸せ最高ありがとう…

濱口桂一郎氏へのお答え

[議論] 濱口桂一郎氏へのお答え (写真は、リベラルアーツの源流の一人プラトン(左)。体育、音楽、文芸、算数、幾何、天文を学ぶことの重要性を説いた。) 濱口桂一郎『新しい労働社会』についての私の書評に対して、濱口氏がご自分のブログで丁寧なコメント…

濱口桂一郎『新しい労働社会』(3)

[読書] 濱口桂一郎『新しい労働社会』(岩波新書 ’09.7.22刊) (その3) (写真は、2009年正月、日比谷公園の炊き出しに並ぶ、「年越し派遣村」の失業者たち。) 日本では年功賃金制度が支配的であるが、年齢とともに給与が上昇するのは、育児や教育などに金の…

濱口桂一郎『新しい労働社会』(2)

[読書] 濱口桂一郎『新しい労働社会』(岩波新書 '09.7.22刊) (その2) (写真は、「リベラルアーツ7学科」を表す図。大学教育は、「真理は人を自由にする」という根本理念に基づいていた。それは、古代・中世以来の「自由人のための諸技術」「人を自由にする…

濱口桂一郎『新しい労働社会』(1)

[読書] 濱口桂一郎『新しい労働社会』(岩波新書 '09.7.22) (その1) 優れた本だったので、主要論点をまとめてみたい。さまざまな論点のうち、「大学はアカデミズムに偏向しており、もっと職業学校化すべし」という著者の主張は、形而上学が専門の哲学教師であ…

鶴屋南北『桜姫』(歌舞伎版)

[演劇] 鶴屋南北『桜姫』(歌舞伎版) 渋谷コクーン(下の写真は、清玄と桜姫) 6月には、現代劇化した『桜姫』(南米版)を見たが、続いて7月には、歌舞伎版が上演された。南米版の方は、混沌として何が何だかよく分らない作品だったが、歌舞伎版はずっと分り…

『ドン・ジョバンニ』DVD三昧

[DVD] モーツァルト『ドン・ジョバンニ』DVDを三本見る (写真はいずれも2008年、コヴェントガーデン王立歌劇場。右は、ジョバンニ(キーンリサイド)とツェルリーナ(ミア・パーション)の二重唱、下は、終幕、全裸のジョバンニとドンナ・エルヴィラ、二人があの…

コクーン歌舞伎『桜姫』

[演劇] コクーン歌舞伎『桜姫(南米版)』 渋谷・コクーン(右は、南米版と歌舞伎版を重ね合わせた広告画像。下は南米版の役者など) 鶴屋南北の歌舞伎『桜姫東文章(あずまぶんしょう)』を、若手劇作家の長塚圭史が現代劇に書き換えた。筋は南北の原作をほぼなぞ…

『ムツェンスク郡のマクベス夫人』

[オペラ] ショスタコーヴィチ『ムツェンスク郡のマクベス夫人』 新国立劇場 (写真右は、カテリーナとセルゲイの結婚式シーン。下は、カテリーナをいじめる舅のボリス。原作の場面を、一世紀後の1950年代に変えた演出。もう一枚は、カテリーナの寝室。光線を…

ワーグナー『ワルキューレ』

[オペラ] ワーグナー『ワルキューレ』 4月12日・新国立劇場 (写真右は、王妃フリッカ(ツィトコーワ)を慰めるヴォータン(ラジライネン)。写真下は、第一幕冒頭、フンディングの家。舞台を上下から刺し貫く象徴的な「矢」。上の矢はトネリコの木で、神剣ノート…

吉川徹『学歴分断社会』(2)

[読書] 吉川徹『学歴分断社会』 (ちくま新書、09年3月刊) [続き] (写真は著者近影、著者のブログは http://kikkawa.blog.eonet.jp/default/ ) [承前] 著者は、三浦展氏の『下流社会』(2005)の論点を踏まえながら、「下流」問題を「学歴分断線」の視点から再…

吉川徹『学歴分断社会』(1)

[読書] 吉川徹『学歴分断社会』(ちくま新書、09年3月刊) (下図は、大学進学率の変化。1960〜75年に大きく上昇したが、その後はゆるやかな変化であり、50%前半で頭打ちになると予想される。90年頃は18歳人口が多いので進学競争率が高かった(大学に行きたくて…

プーランク『カルメル会修道女の対話』

[オペラ] プーランク『カルメル会修道女の対話』 新国立劇場(写真右はポスター。下はフランスのストラスブール(1999)、サンテティエンヌ(2005)での舞台より、後者はギロチンの下で歌う終幕) プーランク(1899〜1963)晩年の傑作オペラ。すでに現代音楽の時代で…

ワーグナー『ラインの黄金』

[オペラ] ワーグナー『ラインの黄金』 3月10日・新国立劇場(写真は今回の舞台。右はアルベリヒを囲むラインの三人の乙女。下は、ヴォータンを中心とする神々の住みか、星に囲まれた宇宙船の船内のよう。そして、ヴォータンを囲むフライアなど一族、ただし後…

有名小説の冒頭部分を比べる

[読書] 有名小説の書き出し部分を比べてみた (右の写真は、若き日のスコット・フィッツジェラルド) 村上春樹訳『グレート・ギャツビー』を読んでいたら、その冒頭の書き出しの素晴らしさに、あらためて感嘆した。小説の書き出しといえば、『アンナ・カレーニ…

アリストファネス『女の平和』

[演劇] アリストファネス『女の平和』 JAM SESSION公演 下北沢「劇」小劇場 (写真右はポスター、下はアメリカでの舞台と漫画) アリストファネスの『女の平和』(原題名”Lysistrata”)は、2400年前にアテナイとスパルタが戦争中に、両国の平和を願うアリストフ…

野田秀樹『パイパー』

[演劇] 野田秀樹『パイパー』 渋谷、シアター・コクーン (写真下は、妹ダイモス(松たか子)と姉フォボス(宮沢りえ)。終幕近く、滅び行く火星から金星へと人々が我がちに逃げる修羅場で、二人は火星にとどまる。スポーツ報知の画像を借用) 『ロープ』以来、ほ…